【レポート】FOODiT TOKYO 2016「知的な変わり者集団!よなよなエール流『愛される』ブランドの作り方」

去る8月22日、外食業界のリーダーたちが一堂に集結したカンファレンス「FOODiT TOKYO 2016」(主催:株式会社トレタ)が、東京・丸の内のJPタワーホール&カンファレンスにて開催されました。今年で2回目の開催となるFOODiTは「未来の外食創造へ。さらに深く、一歩先に。」と題して、多角的に議論を展開。飲食業界が抱える様々なテーマを軸に、これからの業界の「あるべき姿」についての講演・パネルディスカッションが繰り広げられました。
「明日のレストラン」では、業界関係者から大きな注目を集めた数々のプログラムのなかから、代表的なセッションの内容をレポートしていきます。今回は「よなよやエール」で知られる株式会社ヤッホーブルーイング代表取締役社長・井手直行氏の講演を振り返ります。(編集部)

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<登壇者> 株式会社ヤッホーブルーイング 代表取締役社長 井手直行氏

「最初の1杯はビール」と言われた時代も、今は昔。ビール、発泡酒の出荷量は年々減少しており、国内の市場が縮小していくなか、よなよなエール醸造所 ヤッホーブルーイングは11年連続で増収増益を続けています。
クラフトビールメーカーとしては業界最大手。ビール業界全体でも大手5社に次ぐ第6位に位置する同社ですが、実は倒産の危機を迎えたこともあるといいます。いったい彼らは、どのような手法で危機を乗り越え、大躍進を果たしたのでしょうか。

クラフトビールブームの到来と終焉

ヤッホーブルーイングの創業は1996年ですが、歴史を紐解くと1984年に遡ります。当時、ニューヨークに留学していたヤッホーブルーイングの創業者かつ星野リゾート代表の星野佳路氏が、ビールの製造設備を持つブルーパブでビールを飲んだとき、ビールの多様性に衝撃を受けたそうです。

「こんな味のビールを日本にも紹介したい、いつか日本でもビジネスになると思った星野が、1996年にヤッホーブルーイングを設立しました。当時規制が緩和され、ちっちゃな会社でもビールを作れるようになったんですよ」

会社のキャッチコピーは「ビールに味を!人生に幸せを!」。画一的な味しかなかった日本のビール市場にバラエティを提供して新しいビール文化を創出、そしてビールファンにささやかな幸せをお届けするというミッションを掲げました。

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「看板製品はよなよなエールです。個性的な香り、味わい。今は大手さんも様々なビールを作ってきていますけど、いまだにこの、よなよなエールを飲むと他のビールとは明らかに違う香りと味わいが感じられると思います」

創業直後は順調なスタートを切りました。規制緩和とともにクラフトビール(地ビール)ブームが到来。作る量よりもはるかに多い注文が届きます。しかし99年をピークに売上が減っていきます。そう、クラフトビールブームが終焉したのです。

物まねではダメ。自分たちだけの道を選ぶこと

「クラフトビールブームの終焉の理由、それは3つの悪いイメージが消費者についちゃったのが原因なんです」

1つは高価。1つは味が個性的すぎる。1つは美味しくない。従来のビールに慣れ親しんだ人にとっては、コクや苦みが強すぎると感じる製品でした。またブームということで多くの企業が参入し、オフフレーバーな商品も店頭に並んでしまいました。

「100ケースのご注文に対して30ケースぐらいしかお渡しできないときもありました。しかしブームが終わってからは、問屋さん、スーパー、酒屋さん1件1件回っても結構ですと言われる。門前払いされたこともありました」

そこで現金が当たるキャンペーンを仕掛けますが、

「何が起こったかというといつまで経ってもはがきが返ってこないんです。(ヤッホーブルーイングの工場がある)長野県のお客さんはお金がいらないぐらい裕福なのかなと思ったほど、まったく反響がないんです」

そして5〜6年ほど、白馬や志賀高原といった日本有数のスキー場で年始年末に試飲イベントを開催します。

「結構売れはするんですけども、お客さんは県外から来てる方もたくさんいるのでリピートしないため、売上の下落を止めることはできなかった。ただやらないよりはやったほうがいいと思って何年も続けてたんですけど、しんどい思いをして年末年始返上でやっても一向に売上が上がらない。会社の士気も下がって赤字が膨らんできて、いよいよ会社が倒産だなという声がいろんなところから聞こえてきたんです」

そして井出氏は気がつきます。物まねじゃダメなのだと。

「営業的に私がやったことは、ご存知のように大手さんがもっと大きな規模でやってるわけなんです。芸能人を使ってゴールデンタイムに全国でテレビCMを出したり、試飲販売も多分何千人かの社員とかマネキンさんとかを使っていたり。見よう見まねで、小規模で下手な人間がやってもこりゃ勝てっこないなと、当たり前なんですけど改めて思いました」

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そんなとき、ある人から「ビジネスにはセオリーがあるんだよ」と言われます。

「当時、本屋にはしょっちゅう行ってたんですけど少年ジャンプの立ち読み目的でしか行ってなかったんです。でも漫画コーナーの奥の方にはビジネス書コーナーっていうのがあるらしいと。しかもビジネスを教える学校がある、ビジネスに定型だってあるんだよっていうのを聞いて、勉強していかないと駄目だと思ってビジネス書を読むようになり、その通りにいろんなことをやっていきました」

その結果、ヤッホーブルーイングはどん底から這い上がります。創業から8年連続の赤字でしたが、その後の11年は連続増収・増益!

「美味しかったら大丈夫、戦略とかいらないだろうと思う方もいらっしゃると思うんです。僕らもそうだった。美味しいビールさえ作っていればいつかは振り向いてくれると思ってたんです。値段が安い地ビールを作ってればいつかは振り向いてくれると思ってたんですけど振り向いてくれなかったんです」

あの手この手いろいろ考えてるときに戦略が欠けてたという井出氏。そこでアメリカの経営学者・経済学博士であるマイケル・ポーター氏の著書を読み込んでいきます。

「彼の戦略を大胆にまとめると、戦略とは競争上必要なトレード・オフをともなう一連の活動を選び、1つの戦略的な目標に向かって活動間のフィット感を生み出すことである。ということになります」

何かを取ったら何かを捨てないといけないという選択。しかも1回ではなくて、一連の活動において連続して難しい選択を選びなさいという教え。そしていろんな活動をやったときにすべてがつながり、相乗効果が生まれていく。

難しい問題です。2つの道があったら、歩きやすい、多くの人が通っている道を歩みたくなります。しかしビジネスは競争の社会です。覚悟を決めて、誰もがいかない道を選択しなければ大きな成功は望めないのかもしれません。

ファンを巻きこんだ、楽しい企画

100人がいたら自分たちしか歩まないような道を選び続けてきたヤッホーブルーイングですが、実際にはどんなアプローチをしたのでしょうか。

「会社が潰れそうなとき、うちのビールがスーパーや酒屋さんに置かれなくなりました。そんなときでもファンはわれわれのビールを支持してくれました。

『よなよなエール最近近くの酒屋さんで売ってなくなったんですけどどこで売ってますか?』という問い合わせがきました。お客さんの近所の酒屋さんにはどこもなかったので『すみません今はそちらの近くで売ってなくて、だいぶ遠いお店になってしまうのですが』と返答したら『ああじゃあ今度買いに行くよ』

いつまでたってもわれわれのファンは、われわれのビールを支持してくれたんです。そこでインターネットの通販に活路を見出していきました」

そこで気づきがありました。お客さんとダイレクトに商売をしていくと、お客さんのいろんな声を受け取れるようになったのです。従来の、問屋さん・酒屋さん中心の営業ではなかったことです。

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「叱咤激励がありました。とっても美味しかった、感動しましたという声も。そういう声を少しずつ聞いているうちに将来の手応えを感じたんです。当時はまだ赤字でしたし、流通はみんな扱ってくれなくなったんですが、まだ捨てたものではないと。だって支持するファンがいるんだもんと。改めてなんですけどファンの支持なくしてわれわれのビールの製品の成長っていうのはないと感じました」

またファンが支持してくれるとともに、社員のモチベーションが上がっていったそうです。そこでお客さんが喜んでくれるようにと、ネットを使った企画がスタートしました。

「とある品評会で賞をもらったとき、スノーボーダーの格好で行きました。ダンボールでよなよなエールのボードを作って持っていき、その後オークションをしたんですね。10円20円くらいで、洒落で買ってくれる人がいたら面白いと思ってやったらなんと入札が殺到しまして」

これはお客さんが、本物のボードだと勘違いしてると思ったそうです。すぐに『いま開催中の世界に一つだけのオークションなんですが、よなよなエールのスノーボードのように見える方もいらっしゃると思うんですけどただのダンボールで、滑れないどころかダンボール折れてますから。何の役にも立ちませんのでそこをご理解の上よろしくおねがいします』と謝罪のメルマガを出したら、想像に反した反響が届きました。

「みなさん書いてあることが同じなんです。わかってるよそれぐらいはと。これが欲しいんだよって言ってみなさん笑いながら怒ってくれて。そうやってみなさん楽しみながら入札してくれて、最終的にはここで言えないくらいの高額の値段がついて落札されたので、本当に申し訳ないんでビール数ケースつけてお送りしました」

ファンとの、遊びゴコロでつながるコミュニケーションには他の例もあります。

「うちのファンはご夫婦で飲む方が結構いらっしゃるんです。毎日旦那さんが1本、奥さんが1本、たまに休肝日と考えると、50年飲み続けたら750万円分になるんですよ。その50年分のビールをただお一人の方に、300万円引きの450万円でお売りしますという大赤字の企画をやったんです。そしたら皆さんが喜んでくれまして」

期間中に以下のようなお問い合わせがあったそうです。

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『あ、店長かい、いまなんちゃら50年セットってやってるじゃないか、お願いがあるんだけど、締め切りを1週間延ばしてほしいんだ』

『1週間ですか。幸いというか残念ながら問い合わせは殺到してるんですけど誰も申し込みいただいてないんで構いませんが、どうされました?』

『もう少しで妻を説得できそうなんだ。あと1週間あれば絶対大丈夫だ』

『本当ですか? ありがとうございます! 私、奥さん説得に行きましょうか。どちらにお住まいですか、行きますよ飛行機で』

『いやもう店長に来てもらうほどのことでもないんで私ひとりで十分です、待っててください』

ーーー

「結果として申し込みはなかったんです。たぶん奥様が決死の覚悟で旦那さんの血迷った暴挙を食い止めるために素晴らしい家族会議が開かれたと思われるんですけど」

労力をかけたのに売上ゼロ。でも、大反響です。結果、広告費は一切かけていないのに、大きな広告に匹敵するぐらいヤッホーブルーイングの取り組みがシェアされました。

“クレイジーと笑われてもいい。でもわれわれは、よなよなエールでファンを幸せにするのだ”

売上につながらない取り組みが熱狂的ファンを作り出し、そしてファンが増えていくと考えている井出氏いわく

「これをわれわれはビールを中心としたエンターテイメント事業と呼んでるんです。多くの素晴らしいビールの職人が一生懸命ビールを作っていますが、そのイメージよりも、お客さんを楽しませようという考え方を私たちは選択しました」

さまざまな分野でコモディティ化が進んだ時代です。見渡せば、似たような商品が多く並んでいます。だからこそ飽きやすい時代になってしまったとも言えます。

井出氏率いるヤッホーブルーイングは、目先の売上を捨てても、ファンとのコミュニケーションに注力しています。そして、目指すは世界平和だといいます。

「こんな活動をしていったら、社員がとっても生き生きして幸せになっていったんです。ファンのみなさまからもわれわれの活動を通じて幸せになった、というコメントをたくさんいただけるようになってきました。取引先からも一緒に仕事するととても楽しいよ、幸せだよと。われわれの活動範囲が広くなればなるほど、われわれと一緒に仕事をしている方々から幸せだ、って言っていただいて。このまま広げていったら世界中を幸せにできるんじゃないか、いつか世界を平和にできるんじゃないかっていう妄想を最近はするまでにいたっております」

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著者プロフィール

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武者良太
1971年、埼玉県生まれ。80年代後半からライター活動をはじめ、90年代に出版社に入社。編集、撮影、デザインのスキルを身につけ、再度フリーランスに戻る。ギズモードジャパン、モノマガジン、デジモノ、Wired等のメディアに寄稿。元Kotaku Japan編集長。

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