【レポート】FOODiT TOKYO 2016「地方で急成長を続ける『ヤンキーの虎』に学ぶ、外食産業『成長のシナリオ』」

去る8月22日、外食業界のリーダーたちが一堂に集結したカンファレンス「FOODiT TOKYO 2016」(主催:株式会社トレタ)が、東京・丸の内のJPタワーホール&カンファレンスにて開催されました。今年で2回目の開催となるFOODiTは「未来の外食創造へ。さらに深く、一歩先に。」と題して、多角的に議論を展開。飲食業界が抱える様々なテーマを軸に、これからの業界の「あるべき姿」についての講演・パネルディスカッションが繰り広げられました。
「明日のレストラン」では、業界関係者から大きな注目を集めた数々のプログラムのなかから、代表的なセッションの内容をレポートしていきます。(編集部)

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『地方で急成長を続ける「ヤンキーの虎」に学ぶ、外食産業「成長のシナリオ」』と題した講演で、レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役社長の藤野英人氏が登壇しました。藤野氏は長年の投資経験の中から、「投資家が投資したいと思わせる外食産業の特徴」を紹介。さらに、デフレや円高、少子高齢化がますます進む中で「ヤンキーの虎」……“地方発成長企業”にチャンスがあると語りました。

<登壇者>レオス・キャピタルワークス株式会社 代表取締役社長 藤野英人氏
1966年富山県生まれ。1990年早稲田大学法学部卒業。野村投資顧問(現野村アセットマネジメント)、ジャーン・フレミング投信・投資顧問(現JPモルガン・アセット・マネジメント)などを経て、2003年レオス・キャピタルワークス創業、CIO(最高投資責任者)に就任。2009年取締役就任後、2015年10月より現職。

経営者で分かる成長企業の見極め方

藤野氏が率いるレオス・キャピタルワークスは日本株運用の大手企業のひとつ。主力商品の「ひふみ」は「ひふみ投信」と「ひふみプラス」を合わせて約1200億円で、日本株運用会社の中では3番目の規模です。

そんなレオスの運用哲学は「アクティブ主義」。人間が人間を評価するという考え方です。会社を経営しているのは経営者なので、経営者に対する評価が重要。そのため「経営者がいい会社に投資する」というのが基本的な考え方だそうです。

そんな藤野氏は「経営者で分かる成長企業の見極め方のポイントは3つある」と語ります。

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「1つめは、意思決定がシンプルであること。大企業でも成功しているのは比較的シンプルな会社です。20人の優秀な経営陣の合議制より、1人の平凡な経営者の真剣で速やかな意思決定のほうがいい結果を生むことが多いんです。

2つめは長期的な目線で考えることです。今期だけといった考え方はしません。オーナーなら10年、20年、30年先を漠然と見ているように、オーナー経営者が指揮を執っている方が目線が長期になります。

3つめは、徹底した顧客目線です。意思決定がシンプルで目線が長期、徹底した顧客目線。これはどんな企業であろうが変わりません」

投資したい外食産業の条件とは?

では、藤野氏は、外食産業をどのように見ているのでしょうか。投資家としてどんな外食企業に投資したいと考えているのかを、藤野氏はこう話します。

「外食産業の魅力はいくつかありますが、まず『インターネットで置き換えられない』ことが挙げられます。食べ物という現物があって、それを提供しなければいけません。人手がかかるのは非常に労働不足で大変ですが、ネットで置き換えられません。これはとても重要な視点です。ネットで置き換えられる業態は多くの会社が浸食されています。

また、外食産業は『エンターテインメント産業』です。娯楽なんです。食べることの本質は生きるためであり、命に直結していますが、一方で娯楽でもあります。外食としての娯楽性、エンターテインメント性はどこにあるのか、ひとつの切り口として注目しています。

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外食産業は『健康産業』でもあります。人間の体は、以前に食べたすべての食べ物で成り立っています。皆さんの体は食べたもので作られているのです。そういう意味では、健康産業の真ん中であるといえます。(そのお店に)「来れば来るほど、食べれば食べるほど健康になる」という考え方も重要です。

そして、外食産業は『コミュニケーション産業』でもあります。デートなどの真ん中には食事があって、外食産業がある。接待の場でもある。投資するときにはこの会社はどういう機能を持っているのかに注目して投資しているんです」

投資家が注目する外食産業の事業環境

現在の外食産業の事業環境として、藤野氏は、デフレや円高、事業環境の変化、消費税増税以降の消費者心理の低迷などがあると指摘します。「生き方としてのデフレ」として「節約」「倹約」が来ており「断捨離」という言葉が流行。なるべくむさぼらないという“生き方”、人間のあり方の道のレベルにまで達しているといいます。「これはなかなか手強い相手。思想的な背景もあり、節約する生き方に道ができ、精神性が生まれた。より財布のひもを緩ませることが難しくなったのではないか」というのです。

「ここ半年間に起きていることは、それを証明しています。それはデフレ関連銘柄の復活です。アベノミクスで打撃を受けたゼンショーやマクドナルド、吉野家が復活してきました。

マクドナルドは『ポケモンGO』が当たったというのもありますが、それ以前から数字が上がっています。戦略転換がうまくいったというのもありますが。

吉野家は『ちょい飲み』を始めました。4人で飲んで6000円といった感じで、すさまじいデフレです。ちょっと出してちょっとつまんでお話しして飲んで、とできるから、ちょい飲みに需要が生まれています。この成功でちょい飲みに需要があると見て、スターバックスでもアルコールを出す動きが出てきました。これもデフレと関係しています。

他には鳥貴族などもあります。値段が安いのはお客さんの期待感を満たすことで、価格をリーズナブルにするというのは基本的に重要なことです。デフレの時代に戻ってきたのです。今のマーケット環境や円高が進むとなかなか厳しいですね。

クチコミグルメサイトの普及による全国チェーンのブランド価値の低下というのも見られます。例えば川崎に行くと、結構多くの人がクチコミサイトを見る。前はスマホがなかったので(全国チェーンの)和民や魚民に行こうとなりましたが、なかなかそうはなりません。

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もう1つ重要なのが『消費者の二面性』です。チェーン店の従業員のブラック化は許さないが、家族経営のブラック化には寛大です。例えば寝ずにスープを仕込む家族経営の店は高評価ですが、チェーン店で寝ずに働くと『死ぬまで働かせるブラック企業』と評価されてしまう。外食産業を増やすことは店を増やすことで、店を増やすことはチェーン化することですが、チェーン化した店に対しては人間の個別のがんばりを許さないみたいな風潮があります。これにどう立ち向かうかが重要です。

ただ一部のレストランでは、チェーン店だけど個別の店を運営するといった動きが最近出てきています。その背景はそこにあると私は思います。

『個店化の徹底化』か『圧倒的な信頼のブランドを作る』か。中途半端なブランドをまき散らしても、結局はブラック店をたくさん作ることになっていまいます。一方で、ファーストフードやファミリーレストランなど、業態としてブラック化しにくいような、見える業態に対しては比較的寛容ではないかと思います」

ヤンキーの虎──地方発成長企業の誕生

藤野氏は『ヤンキーの虎──新・ジモト経済の支配者たち』という本を書いておられます。このヤンキーの虎が示しているものとは何なのでしょうか。それは大企業の地方撤退から地方発成長企業の誕生ということです。

「新しい業態ではなく、例えばケータイ販売店やコンビニのフランチャイジー、水の販売、保険代理店、不動産賃貸業、介護施設運営などです。それらを組み合わせて生きている人たちが地方にいっぱいいます。東京の人にとってはビジネスの新規性は全くないので、それを組み合わせている人への評価は低いです。でも実は地方ですごくうまくいく戦略なのです。

ようするに、地方の顧客に対してフランチャイズビジネスを束ねて提供している地方豪族がヤンキーの虎ということです。北海道から沖縄までどこにもいて、かつ意外に成長しています。なぜかというと日銭ビジネスをしていてキャッシュフローがが回っており、店を作れば成長するため事業計画が立てやすく、お金を貸したくてしょうがない地方銀行からすれば数少ないお金の貸し手になっています。だからこれらの会社はすごく伸びているのです」

全国チェーンになった会社も、もともと『ヤンキーの虎』だった会社が多くあるといいます。

例えば、ヤマダ電機は群馬の家電店からスタート。まねきねこ(「カラオケまねきねこ」などを展開するコシダカ)も群馬県で生まれました。さらに、しまむらは埼玉県、ニトリは北海道。ドン・キホーテは東京の地方で、CoCo壱番屋は愛知、ユニクロは山口県の洋品店から出発しています。このように、もともとヤンキーの虎だった企業が全国チェーン化するだけのビジネスモデルを構築して全国に出て行った、と藤野氏は指摘します。

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「ヤンキーの虎とは『マイルドヤンキー』(地元指向が強くて内向的で、上昇志向が低い人たちのこと)をとりまとめる地方豪族のことです。建設業などの地場産業を軸にコンビニや中古車販売、介護などコングロマリット化で事業を展開しています。衰退した地元企業を矢継ぎ早に買収することもあり、地元が求める業態なら何でもやります。事業継承型の2代目、3代目と、成り上がり型の2種類があります。

ヤンキーの虎はこれまで過小評価されてきましたが、この人たちの成長力は地元の情報を知り尽くしていることにあります。地縁と血縁で動き、マイルドヤンキーを束ねて『ど根性』を植え付ける教育システムなどがあります。野球部ネットワークやサッカー部ネットワークなど、コストをかけない集客ノウハウも持っています。コングロマリットのシナジーで駐車場や人材を共有していき、要は地方にある人たちをなだめすかしながらいろいろ配置して何とかやっているのです。

この人たちがメガフランチャイジーとして成長する可能性があります。それは、地域密着から地域拡大へ、ということです。今は全国的にこういう会社がたくさん出てきており、年率10%、20%で伸びています。

少子高齢化でマーケットが縮小していますが、地域ごとの『虎』は伸びているから、それぞれが大きくなって初めて競争が生まれます。では、(団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者になり、団塊ジュニア世代がすべて50歳代になる)2025年以降の競争で生き抜くためにどうすればいいのか。

最初は『ど根性』さえあれば生きられます。地方には優秀な人もいますが、相対的に競争力が弱いので、そこそこ優秀でそこそこ根性があってリスクを取れる力があれば、無敵に勝てる状態があります。東京より競争環境が弱いものの、需要がそこそこあるため、意外と地方に移れば勝てるといって実際に移っている会社もあります。

2025年になってくると総需要が減るので、必ずヤンキーの虎同士の戦いになります。そうなると、ど根性だけではうまくいかなくなります。マーケティング力、資金調達力、ブランド構築力、人事考課システムなどが必要になる時代が必ず来ます。ということは、今からスタートする形で準備する必要があるわけです。

2025年以降の勝ち残りを今から考えて、今から近代的な仕組みを導入することで、2025年以降の過当競争の時代に勝ち残れます。必ずこの時代が来るので、そのために財務力、マーケティング力、グローバルで戦える力、人材採用をできるノウハウを身に着け、金融機関とコミュニケーションして資金調達力を上げることをお勧めしたいと思います」

「2025年問題」を乗り切るための長期的戦略が重要

藤野氏は講演の中で「2025年」というキーワードを何度も挙げ、企業にとってこれから約10年が正念場であることを強調しました。2025年というのは団塊の世代(1947年〜1949年に生まれた第1次ベビーブーム世代)がすべて75歳以上の後期高齢者になるだけでなく、団塊ジュニア世代(1971年〜1974年までの第2次ベビーブーム世代)がすべて50歳代になる年です。すでに進行している日本の高齢化が、さらなる転換期を迎える年といえるでしょう。

藤野氏が外食産業に注目する理由として、外食産業がエンターテインメント産業であり、健康産業であり、コミュニケーション産業であることを挙げています。少子高齢化が進む中でもこうした側面をうまく取り入れれば、大きなチャンスをつかめる可能性が高く、さらに投資家からも資金を得られる可能性もあるということなのかも知れません。

一方、地域に根ざして急成長を遂げる「ヤンキーの虎」のビジネススタイルに着目すべきという藤野氏の主張は「投資したい外食産業の条件」という話と相反するようにも思えます。しかし企業家は新規性のある業態やビジネスモデルを構築するのが本業ではなく、継続的に資金を調達して事業を拡大し、ステークホルダー(株主や従業員、顧客などの利害関係者)に利益をもたらすことが重要です。目新しいビジネスモデルはなくても、数多くの事業を手がけることで着実に利益を生み出す「ヤンキーの虎」のビジネススタイルには注目すべきポイントがたくさんあり、そのための準備を怠ってはいけないのではないでしょうか。

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著者プロフィール

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安蔵靖志
IT・家電ジャーナリスト 家電製品総合アドバイザー。AllAbout 家電ガイド。ビジネス・IT系出版社を経てフリーに。記事執筆のほか、テレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。KBCラジオ「キャイ〜ンの家電ソムリエ」に出演中。日経DUALにてコラム「使って、作って、食べてみた! お弁当男子×家電」を連載中。

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