【レポート】FOODiT TOKYO 2016「ワンダーテーブルの教育と採用」

去る8月22日、外食業界のリーダーたちが一堂に集結したカンファレンス「FOODiT TOKYO 2016」(主催:株式会社トレタ)が、東京・丸の内のJPタワーホール&カンファレンスにて開催されました。今年で2回目となるFOODiTは「未来の外食創造へ。さらに深く、一歩先に。」と題して、多角的に議論を展開。飲食業界が抱える様々なテーマを軸に、これからの業界の「あるべき姿」についての講演・パネルディスカッションが繰り広げられました。
そこで「明日のレストラン」では、業界関係者から大きな注目を集めた数々のプログラムのなかから、代表的なセッションの内容をレポートしていくことにしました。(編集部)

和食、イタリアン、海外ブランド誘致など多彩な店舗展開で知られるワンダーテーブル。同社はまた、理想的なCS(カスタマーサービス)の実現に向けた人材採用・教育にも定評があります。今年4月には社内研修を体系化して「ワンダーテーブルカレッジ(ワンカレ)」を開講するなど、従業員の教育に力を注ぐなか、今後を見据えた同社が目指す飲食店の姿と「ホスピタリティ」はどんなものなのでしょうか。ワンダーテーブル・秋元社長の講演を振り返ってみました。

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<登壇者>株式会社ワンダーテーブル 代表取締役社長 秋元巳智雄 氏
1969年7月3日生まれ。学生時代よりレストラン、バー、カフェでアルバイトを行う。大学生時代に店舗マネージャーやスーパーバイザーを経験。1992年 (株)ミュープランニング&オペレーターズに入社。全国で飲食店の業態開発や現場トレーニングを行う。1994年 友人と創業し、バー、レストラン、スパニッシュを経営。1996年 (株)ワンダーテーブル入社(旧富士汽船(株))。2012年 代表取締役社長に就任。

TEAM of ワンダーテーブル

今日は、ホスピタリティというキーワードをメインに皆様にご披露させていただきます。まず一つ目が『TEAM』です。

私は20代の頃、研修の仕事をしていました。北海道から沖縄までいろんなお店の研修をしているときに、アルバイトさんに言い続けたことーーそれが『TEAM』なんです。Tは考える、Thinkです。EはEye Contact、目線を合わせる。AはAsk、質問をする。Mはメモを取ることです。

弊社には230人の社員がいますが、半年に1回、全社員と1対1で面談をしています。すると、9割ぐらいの社員の人が、将来独立したいとか社長になりたいとか言います。でも、店を持ちたいんだけど、店を持つための準備をしていない人が多いです。

ですから私は「家と店の往復にならないようにしよう」ということをつねに社員に言っています。そのためにも、考えて仕事をする習慣をつけてほしい。しかし、上司や先輩が、部下や後輩に「お前考えろよ」と言っても考えられません。大事なのは何かというと「質問をする」ということです。

上司やリーダーの人たちが考えて質問する、そうじゃないと部下や後輩は成長しません。上司が考えていないと「お前これやっとけ」という指示・命令だけになってしまいます。でも「来月こんなイベントやりたいんだけど、どうかな?」とか「110%の売上をあげたいんだけれど、具体的にはどんなことをやったらいいかな?」とか。つねに上司が考えて質問することによって、部下には考える習慣が付いていくわけです。

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続いて、目線を合わせること。これは、真剣さを伝えるということです。上司と部下の間では、目線を合わせることによって「うちのボスは真剣に言ってるんだな」ということが伝わります。

現場においても一緒です。「いらっしゃいませ」と大きな声で迎えるお店があります。それが嫌いでもないし、ダメとはいいません。ただ、大きな声を出す以上にお客様に目線を合わせて「いらっしゃいませ」とか「こんばんは」って言うことがとっても大事だと思っているんです。スタッフ間でもお客様とお話しをする時でも、目線を合わせることによって真剣さが伝わる、気持ちが伝わると思っています。

本日のテーマのホスピタリティは、サービスと繋がります。このとき大切なのは、人は忘れるということ。だからメモを取る習慣を付けようと言っています。サービスとは「記録と記憶」なんです。メモを取り、記録することによって、記憶する力が身について、お客様をまた喜ばせることができると思っています。

例えば、2回目に訪れた店で、名前を覚えていてくれたら。これは非常にびっくりする嬉しいことです。そのためには1回目のときにお客様のことを知ろうとしていないといけないし、質問をしないといけないし、メモを取らないといけないし、覚える努力もしないといけません。

1回目に来てくれた時に「初めてなんですよ」「そうですか、うちはおすすめこれなんですよ」という会話があったとします。そのお客様はお勧めをしたトリュフのピザで喜んでくれました。そしたらメモを取るわけです。「今日初めて来てくれたAさん、社長をやっているらしい、僕がお勧めしたトリュフのピザ気に入ってくれた」と。その後、また予約して来てくれた。そのときに、前回は誰々にサービスを受けたとはいいません。
そのときに、ITやそういう仕組みを利用することで、このAさんが、前回僕が担当してくれたお客様だと気づけたら、Aさんが来たときに「Aさん、こんにちは」って言えるわけです。普通に「いらっしゃいませ」ではなくて。

それが、サービスとホスピタリティの違いだし、記録と記憶のサービスだと思っています。

ワンダーテーブルのMVV(ミッション、ビジョン、バリューズ)

サービスに繋がる弊社のフィロソフィーの話をします。企業理念やミッションなど、色々ないい方があります。我々は『ミッション』『ビジョン』『バリューズ』の3つに分けています。別に分けなくても良いんですが、海外の、外食だけではなくて、優良と言われるような企業の企業理念を見たときに『MVV』で分かれている企業が非常に多かったんです。そこで我々も約10年前、今の形にするときに『MVV』をまとめて『ワンダーテーブルフィロソフィー(企業哲学)』としています。

ミッションは我々のサービスに繋がっていきます。それは「市場を拓き、嬉しい時間を作る」ということです。これが我々の、ワンダーテーブルの使命です。簡単にいうと、ニッチトップを目指すということです。ニッチ市場でトップブランドになるというテーマと嬉しい時間を作るというのが我々のミッションなんだと言っています。

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なぜ「嬉しい」であって「楽しい」ではないのか。ダメだというわけではないんです。例えば「鳥番長に行って楽しかった」って言いますよね。でも「ソルトに行って嬉しかった」とは言いません。「楽しい」という総合的な評価ではなくて、自分が何かをすることによって「嬉しい」と思ってもらえる仕事をしようということです。

つまり「嬉しい」というのは、相手にしてもらって感じる感情なんです。2回目なのに名前を覚えてくれて「嬉しかった」というわけです。総合的に「楽しかった」というのは、ブランド力が大きい。もちろん「楽しかった」って思ってもらいたいんですけど、その中で「嬉しい時間」っていうのを私たちは作っただろうかーーということです。

例えば、シェフが自分のために塩加減を調整してくれて「嬉しかった」。
例えば、シェフがわざわざ挨拶に来てくれて「嬉しかった」。

これがワンダーテーブルで働く社員の仕事。こういったものが、我々のホスピタリティに繋がっていくんだと言っています。

サービスとホスピタリティの違い

我々のお店のゴールは「嬉しい時間」を作って、リピートしていただくこと。つまり、今日来たお客様に、また来たいって思ってもらうことです。

そのために大事なのは、まず商品とサービス。この商品とサービスは知識と技術なので、仕組みを作ればマニュアル化して教育ができます。商品とサービスをしっかり教育をして、ホスピタリティ・マインドを醸成することで、お客様にリピートしてもらえる「嬉しい時間」が作れると言っています。

じゃあサービスとホスピタリティは何が違うんでしょうか。

うちではハッキリと定義付けています。サービスとは、商品とや接客を提供すること。つまり、しなきゃいけないことです。それに対してホスピタリティとは何か。『おもてなし』と言われることがありますが、お客様のためにしてあげること、そして、相手に喜びを感じてもらうことが我々のホスピタリティなんです。

ホスピタリティの原点として、私が大事にしているのは、親から受けた愛情です。子どもが生まれたら、抱っこしますよね。英語でハグです。実際にはできないので、ハグの気持ちを持って接しようしようといっています。そして、その次がTEAMのE、見つめると言うこと。つまり、母親は子供を産んでハグをして、見つめるわけです。それで愛情とか真剣さが伝わるわけです。見つめてハグをする、そして、おっぱいをあげます。それが初めに人が感じる、ホスピタリティの原点なんです。

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商品とサービスは知識と技術で学べますがホスピタリティは概念なので、そう考えて思って働かないと、お客様に伝わりません。

飲食業では見知らぬ人毎日がきます。でも、自分の大切な人のように思って働くっていうことが、ホスピタリティなんです。

商品とサービスは、知識と技術なので、1対多です。しかし、ホスピタリティっていうのは1対1です。では、1対多は一方向ですが、1対1は双方向です。その違いはなにかっていうと、笑顔で「お客様いらっしゃいませ」「いらっしゃいませ、こんにちは」とお迎えするのはサービスです。これは知識と技術で教えることができる。100人お客さまが来たら100人にできます。

一方、ホスピタリティは1対1です。その人のためだけに考えてする行動です。例えば、Bさんという常連さんがいます。年に50回は来る常連さんだけど、それに気づいていない。でもその店は、サービスのレベルが高い店だから、常に「いらっしゃいませ」「ご注文は何になさりますか」「かしこまりました」とお迎えします。ただ、Bさんだけのための行動を一度も取っていない。これではただサービスのいい店で、ホスピタリティがある店ではありません。

ではその時にホスピタリティを発揮するためにはどうしたらいいか。「いつもすみません。大変失礼ですけれども毎日のように来ていただいて、お名前お伺いしていいですか」って聞くんです。名前を聞いたら、メモを取るわけです。次に来たときは「あっ、Bさん、こんにちは、今日は雨の中すみません」って言うんです。

GEM(ゲスト・エクスペリエンス・マネージメント)

最後に『GEM』の話をしたいと思います。英語で磨き上げた宝石という意味です。これは僕のニューヨークのボスに、全米のレストラン業界でホスピタリティの神様と呼ばれているダニー・マイヤーさんという人がいます。

彼が使っているのがGEMという仕組み。これは何かって言うと、『GUEST EXPERIENCE MANAGEMENT』の略で、お客様に体験をもたらすマネージメント、ということ。つまりトレタなどのIT技術を使って、お客様をマネージメントしていくということです。

具体的にはお客さまの情報を収集してセグメンテーションして、アクションを決めます。ただし、それはさっきのメモだけだとしんどいので、トレタのようなIT技術を上手く使います。例えば、まず初めて来たお客様、それから、2回3回、4回、9回、10回で分けています。10回以上来るお客様のことをロイヤルゲストと呼んでいます。

初回の来店の場合、まずはお名前を伺ったりして、お客さんの情報を理解する。また、次リターンしてもらうためにも、お礼状送ったりしています。

2回から3回っていうのは、実は囲い込みをしなきゃいけないときです。トレタを使っているとお客様の来店履歴がでるようになっています。だから、その人が何回来たがが分かるのです。

2回目のお客さまは大事です。6時半予約のお客さまがCさんしかいないなら「Cさん、こんばんは」って言う。そうしてリピーターを増やして、常連客にしていきます。常連客になったら、今度はシーティングや担当サーバーなども非常に気遣っていきます。また、支配人がちゃんと挨拶をしていなかったり、4回目、9回目に顔と名前が一致しないようだったら必ず支配人に挨拶にいかせています。

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そうなったたとき、逆に自分は担当せず、別サーバーに担当させます。そうして、いろんなサーバーを担当させて、みんながお名前を呼び、挨拶に行けるようにまでなると、仮にエースが辞めたとしても「あの店にいくと、みんな僕に気を遣ってくれて、居心地いいよね」という状態が作れます。

お店が持つ情報と『GEM』の間に『ホスピタリティ』があります。情報を活用して『おもてなし』することによって我々のゴールである「リピートしてもらうこと、『嬉しい時間』を作ること」ができるようになると考えています。この情報活用は手書きでは無理です。ぜひとも皆様も、ITを活用しながら、お客様のマネージメントをしていってください。それが2020年に向けて大事なことなんじゃないかと思っています。

著者プロフィール

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コヤマタカヒロ
1973年、兵庫県生まれ。90年代にファッション誌にてライター業をスタート。現在はデジタル機器やガジェット、家電などのモノ系とそれらを取り巻くサービスを中心に取材・執筆活動を展開。学税時代はずっと厨房でアルバイトしていたこともあり、趣味は料理。

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