【レポート】FOODiT TOKYO 2016「創業350 余年・老舗料亭『赤坂浅田』が挑戦するおもてなしの新潮流」

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去る8月22日、外食業界のリーダーたちが一堂に集結したカンファレンス「FOODiT TOKYO 2016」(主催:株式会社トレタ)が、東京・丸の内のJPタワーホール&カンファレンスにて開催されました。今年で2回目の開催となるFOODiTは「未来の外食創造へ。さらに深く、一歩先に。」と題して、多角的に議論を展開。飲食業界が抱える様々なテーマを軸に、これからの業界の「あるべき姿」についての講演・パネルディスカッションが繰り広げられました。
「明日のレストラン」では、業界関係者から大きな注目を集めた数々のプログラムのなかから、代表的なセッションの内容をレポートしていきます。(編集部)

その第1弾として紹介するセッションは「創業350 余年・老舗料亭『赤坂浅田』が挑戦するおもてなしの新潮流」。
1867年に開業した老舗・浅田屋が発祥の高級料亭の赤坂浅田。社用ニーズが中心だった赤坂の料亭が急速にしぼんでいくなか、ITの活用や週末ランチニーズの開拓で新たな展開を見せています。それを主導している赤坂浅田・三代目社長の浅田松太氏に、これからの時代に求められる接客サービスについて伺いました。

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<登壇者>浅田屋伊兵衛商店株式会社 代表取締役 浅田 松太 氏
1968年、石川県生まれ。慶應義塾大学卒業後、都市銀行勤務。1997年、浅田屋伊兵衛商店株式会社入社。2008年より代表取締役に。同年より赤坂料亭組合の組合長、2011年から14年まで東京日本料理事業、芽生会の会長も務める。

江戸時代の飛脚業から旅館へと業態変換したのが「赤坂浅田」の始まり

浅田の歴史は古く、創業は1659年に遡ります。加賀藩の四代目藩主前田綱紀公より「中荷物御用」、つまり加賀と江戸の上屋敷を結ぶ飛脚の棟取りを巻かせたことが始まりです。その後、1697年、明治維新の前年に飛脚業から業態変換を行い神奈川に「浅田屋」という旅館を開業。そして1971年、赤坂に加賀料理の料亭「赤坂浅田」を開業。青山、名古屋店を開店して現在に至ります。
もともと家業を継ぐつもりがなかったと語る三代目の浅田松太氏。『浅田のおもてなし』について、核となることを伺いました。

「お座敷というのは、日本文化のいろんなことが凝縮されている空間です。お料理はもちろん、床を飾る掛け軸、季節の花も、日本の文化だと思います。また、接客係が着ている着物ですとか、さらに芸者衆のもてなし。そして、器に描かれる輪島塗の蒔絵などの芸術は料亭が使わなくなると、作っていただける職人の方のお仕事がなくなります。
そういう技術を継承するためにも料亭は営業を続けていかなくてはいけないのではないかという風に考えています。次の世代に継承したい日本の大切な文化であるという思いを持って営業しています」

しかし、料亭の経営は決して安泰ではありません。昭和40年代、赤坂には60軒の料亭があり、芸者衆が400名在籍するなど、花柳界は非常に栄えていました。しかし、平成28年現在、料亭は5軒に、そして芸者衆は22名に減少しています。これにはいくつかの原因があるようです。例えば、後日請求が基本という商習慣から「一見さんお断り」となり、顧客が固定化・高齢化してしまったこと。また、景気低迷に伴う交際費の削減や、料亭経営者の高齢化と後継者不足なども料亭が衰退していく要因となりました。しかし、浅田氏はこの料亭文化を次世代に繋げることを自分たちの世代の役割だと考えているといいます。

「私は学校を卒業してから都市銀行に就職しました。というのも、卒業した1992年はバブル経済が崩壊した直後で、家業の料亭は急にお客様がいらっしゃらなくなって非常に厳しい時代でした。この先、料亭を続けていくのは、多分無理じゃないかという考えて、銀行に就職しました。
その後、結婚した家内が青山店に入って若女将で勤めておりましたので、毎日いろんな話を聞いているうちに、そろそろ思い切って家業を継がないといけないと思い、5年後に実家である『浅田屋』に戻ったんです」

そこで浅田氏を待っていたのは受付。お客様の靴を預かり、帰るときに並べる『下足番』の仕事でした。お客様には浅田氏が「浅田」の三代目だと知らせることなく出迎えしていたそうです。浅田氏はこの下足番を15年間も勤めたことで、いろんなことを感じたと話します。

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「『浅田』に入って、日中は総務、経理。そして夜は青山の『浅田』で下足番をしていました。お客様がお店に入った瞬間に『○○様、ようこそお越しくださいました』とお声を掛けてお出迎えをするということがが徐々にできるようになっていきます。すると、接客係が配膳をする時にどういう風にお盆を持って廊下を歩いて行くかとか、接客がお出迎えをしている時の表情の笑顔がちゃんとしているかとか、そういうところも何となく気になるようになってきました。
すると、お客様が靴をはく瞬間に、その時のお席がどんな感じだったかが、何となく分かるようになってきます。接客はどうだったとか、あるいはお料理は大丈夫だったかというのが感じ取れるようになって、そこから徐々にお料理のお献立なんかも私が少し考えるようになってまいりました」

誰かに教わったわけではなく、下足番という仕事を通して、お客様と、そして料亭と向き合ったとこで、浅田氏は今の時代に求められることを、そしてやらなければならないことを見つけていったということです。

「浅田」が大切にする「おもてなし」とは

15年の間、下足番を続けたなかで浅田氏が見つけた「おもてなし」のこころ。それは具体的に何かをするということではありませんでした。最も大切なのは、接客を行う人の「心」だといいます。

「お客様がお店にいらっしゃるのは、2時間から3時間くらいのわずかな時間です。その時間、接客するスタッフが心身ともにベストな状態であるために準備することがとても大切だと考えております。
例えば、お出迎えするときの身だしなみをきっちり整えること、着物を綺麗に着る、ヘアメイクをお互いにチェックする、そして笑顔でご挨拶ができていることです。
こういうことも、もちろん毎日チェックしているんですけれど、年に1回外部の先生にお願いをして、身だしなみや言葉遣いを研修で見直しています。また、当たり前のことですが、接客のスタッフも日々規則正しい生活をして、毎日毎日を日々丁寧に暮らすことが非常に大事だと考えております。
接客や料理の世界には、これでいいという到達点がありません。お客様にさらにお喜びいただくためには、自分はどうしたらいいのかを常に考えながらお仕事していただくというのがすごく大事です。『自分はよくできる』と思った時点でそれぞれの成長が止まってしまいます。常に学び続ける謙虚さをとても大切にしております」

しかし、これらの基本に加えて「おもてなし」として求められることも時代によって変化していきます。例えば、昔は夜の接待というと10人以上の会席が頻繁に催されていました。その場合、接待する側には、秘書や若い社員が同席しており、その席の進行管理やお客さまへのお土産の用意、そして帰りのクルマの手配などもその方々が行っていました。
しかし、最近では4人、6人といった宴席が一般的となり、接待する側はお客様をひとりでもてなしているというケースも増えているそうです。

「そういう場合は、お席のお料理・お飲み物の進行はもちろん、お帰りのおみやげの管理やお車の手配まで、お店のスタッフが一緒になってゲストをおもてなしする、ということが非常に増えています。
接客係がお料理・お飲み物をきっちりお出しすればよかった時代から変わって、いろんなところに気を配って、お客様をおもてなしするという仕事内容になってきていると感じます」

積極的に経験のない若い人を育てていく

日本料理店・料亭というと、ベテランがお座敷に付くというというイメージが強くありますが、「浅田」では今、積極的に若い人を採用しています。3年前から新卒採用をメインとして採り入れ、浅田氏自ら採用を担当しているほどです。
ひとりひとりと面接をしてしっかり話した上で、素直に学びたいという気持ちを持った若者を採用。まっさらな状態からひとつひとつ学んでいくというスタイルです。
そんななかで面白いのが、自由に参加できるお茶のお稽古や日本舞踊の稽古など研修として用意しているということ。それぞれ、金沢や名古屋などから月に数度講師を東京に招いて、指導してもらっているそうです。

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「お茶にしても、踊りにしても、お客様の前で披露するようなことはありません。ただ、本物の日本舞踊に触れると、そこから確実の日本文化に対する興味を広げてくれたらうれしいなと思っています。私自身、日本舞踊や茶のお稽古には参加しています」

そういった研修の甲斐もあり、各自が自然に集まって、店単位や部門別でミーティングが行われるようになりました。そして、サービスをより良いものに改善し、お店を良くしようという動きが出てきているといいます。

ITの活用も「おもてなし」のために

浅田氏が力を入れているのがITの活用。「浅田」では予約システムとして、昨年からトレタを導入しています。しかし、これには多くの壁が立ちふさがりました。そのひとつが現場でした。

「予約台帳の電子化は6〜7年前から考えていました。とあるパソコンのソフトを何回か導入しようと、何回かプレゼンをして貰いました。しかし、一回目は現場が全く受け付けず、2年ぐらい経ってから、もう一度プレゼンしていただいたんですが、プレゼンの最中で受付の担当者が『こういうシステムを入れるんだったら、私仕事を辞めます』といって席を立ってしまうこともありました。
それほど誇りを持って予約を受け付けている。予約台帳は、お店の肝となる一番大事な所ですから、それだけ強いプライドを持ってお仕事していますから、それを電子化してパソコンにデータを残していくというやり方がどうしてもできないと言われました。
また、パソコンは入力が簡単とは言えず、また、バックアップ体制はどうするのかなど、課題もあり、そこでも断念しました。
しかし、トレタはすんなり導入できたという感じがあります。iPadを使って入力していきますので、スマホが使えれば誰でも入力ができます。しかもデータはしっかりと残るようなシステムができています。
トレタは情報がすべてクラウド上にありますので、受付係が電話を受けて記録した内容を、調理場でも見られるんです。トレタの情報を見るだけで、情報共有できる。それにプラスして当日の予約に関しては紙に内容をプリントアウトして、情報共有を行っています」

トレタの導入によって、現場では安心感が生まれした。例えばお客様から『前回と同じような内容で』と言われたとき、履歴の検索が非常に簡単にできるため、メニューのおすすめがしやすくなりました。その結果、電話でのやりとりがスムーズになり、お客様と安心してコミュニケーションできるように。さらにトレタによって、予約伝票が資産になっていくことも実感しているといいます。

「紙の台帳とトレタとで、私が一番大きく違うと感じるのが、紙の台帳の場合、当日まではそこに予約内容をきっちりと書き込みをして、その内容を各セクションごとに共有してお席に反映させるなど、すごく大切な情報として扱うんですが、その日が終わってしまってからはなかなか見返すことはしません。
一方でトレタは、日々予約内容を入力することで、それらがデータとして自然と溜まっていきます。あとから検索したり、お客様の来店状況を見ることが非常に簡単にできますので、この入力予約内容がこの先のお店の資産になっていくということです。
また、いま、浅田はお店が3店舗ありますが、そのすべての予約内容はトレタでチェックすることができます。例えば私が伺って挨拶をした方がいいお客様がトレタでチェックできますし、伺えない場合も場合でもきちっと指示を出すことができます。こういったことがもれなくできるようになったのが非常に大きいと思います」

「浅田」が考えるおもてなしの未来

これまで浅田氏が考える、そして料亭で実践しているおもてなしについてお話を伺ってきました。それは心構えであり、そして時代にあわせて変化していくことでもあります。トレタというテクノロジーの導入もそのひとつ。そこで最後に、これから挑戦したいこと、予定はないがこういうおもてなしができたらいいと浅田氏が考えることを伺いました。

「ぱっと考えるのは人工知能、AIが注目されているということですね。例えば、料理の献立にAIを活用しながらご提案するということも今後出てくるのではないでしょうか。
スタッフからは具体的な話として、ITを利用して外国のお客様とスムーズにコミュニケーションがとれるようになったらいいと思っているようです。
今後は、ITを活用したおもてなしのやり方を一緒に考えて何か作っていきたいと考えています。
『浅田』には芸者衆がお席に入ることがありますが、いま、芸者の管理は組合事務所の見番にある紙の台帳で行っているんです。例えば、Aという芸者が「浅田」に何時から何時まで入ります、と見番のスタッフが記録してはいるんですが、それが漏れていたり、うまく記録がされていなくて、芸者が稼働する機会を逃してしまうということがあります。
さらに例えば最初のお席が8時半で終わってその後は空いているという場合も、その芸者がどこにいるかは他の料亭からは見えません。その芸者を呼びたくても、声をかけることが出来ないんです。
そういうのもクラウド上の管理システムを導入することによって、上手くできるのではないかなと考えています」

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最後に浅田氏は『人生の目的は金銭を得るに非ず、品性を完成するにあり』という、キリスト教思想家であり社会学者でもある内田鑑三氏の言葉を大切にしていると語ってくれました。
飲食業は日々お客様と接することで、自分を研いていくことができるのが特徴。浅田氏は、こういう時にどうしたら喜んでいただけるのだろうかと、日々学びながら生きていくことを大切にしているそうです。

著者プロフィール

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コヤマタカヒロ
1973年、兵庫県生まれ。90年代にファッション誌にてライター業をスタート。現在はデジタル機器やガジェット、家電などのモノ系とそれらを取り巻くサービスを中心に取材・執筆活動を展開。学税時代はずっと厨房でアルバイトしていたこともあり、趣味は料理。

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