【レポート】FOODIT TOKYO 2016「外食産業のASEAN進出 成功の秘訣、失敗の理由」

去る8月22日、外食業界のリーダーたちが一堂に集結したカンファレンス「FOODiT TOKYO 2016」(主催:株式会社トレタ)が、東京・丸の内のJPタワーホール&カンファレンスにて開催されました。今年で2回目となるFOODiTは「未来の外食創造へ。さらに深く、一歩先に。」と題して、多角的に議論を展開。飲食業界が抱える様々なテーマを軸に、これからの業界の「あるべき姿」についての講演・パネルディスカッションが繰り広げられました。
そこで「明日のレストラン」では、業界関係者から大きな注目を集めた数々のプログラムのなかから、代表的なセッションの内容をレポートしていきます。(編集部)

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「外食産業のASEAN進出 成功の秘訣、失敗の理由」と題したセッションでは、外食産業の海外進出支援や事業開発などを手がける株式会社epoc代表取締役の佐藤信之氏が登壇し、モデレーターを務める日経BP社の戸田顕司氏とともにASEAN諸国への外食企業進出の現状、各国市場の現状などについてのトークが繰り広げられました。

日本国内の外食市場が飽和化しつつあるなか、その一方でASEAN諸国の外食市場規模は年々急激に拡大。数年後には日本の外食市場と肩を並べるまでに成長すると予測されているほどです。そんな魅力的なASEAN市場に進出し、成功を収めるための条件とは何なのでしょうか。
今回のレポートは、お二人のお話を対談形式でまとめてみました。 

<登壇者>
株式会社epoc 代表取締役 佐藤信之氏
日経BP社 日経トップリーダー事業開発部長 食ビジネス シニアリサーチャー 戸田顕司氏

7業態が集まる日本食フードコートをタイ・バンコクで運営

戸田 epocさんは「88食堂NIPPON」という新コンセプトの店をオープンされました。バンコクにはすでに日本食レストランがたくさんある中で、なぜこのお店を立ち上げて、どういうお店を目指しているのでしょうか。

佐藤 去年12月、バンコクの中心部のセントラルワールドという大きな商業施設にグランドオープンしました。コンセプトは「THIS IS JAPAN」で、日本そのものを海外で表現しようと考えました。そして、バンコクの伊勢丹内の食品フロアをリニューアルして「デパ地下」みたいなものを作ったわけです。われわれも3年ほど外食の進出支援をしてきて、これから家で食事する、家で料理するという流れになるだろうと考えましたが、まだちょっと早い。そこでデパ地下にフードコートを入れたらどうかと提案してオープンすることになりました。

戸田 「88食堂NIPPON」というネーミングにはどんな意味があるのでしょうか。

佐藤 このプロジェクトは、われわれと「カフェ・カンパニー」が一緒になってスタートしました。タイは観光客が100万人ぐらい来日するほど日本が好きで、日本食にも大きな興味を持たれています。世界的に日本食レストランは日本人以外が経営する店が流行る傾向がありますが、タイは日本と同じ味を求める傾向が強くなると思うので、あえて日本的なコンセプトを持ってきてこういうネーミングになりました。
業態は、すし、鉄板焼き、ラーメン、オムライスなどの洋食、和の定食、焼き鳥、カフェの7つです。有名ブランドに入ってもらっていますが、われわれがブランドのライセンシーになって、フードコートだけでなく、それぞれの店舗自体を一括して運営するという珍しい方式をとっています。

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▲株式会社epoc 代表取締役 佐藤信之氏

戸田 オープンして約半年経過した手応えはいかがでしょうか。

佐藤 フードコートの一括運営はばかげているというか、リスクは高いです。でもやってよかったですね。一括運営するとサービス感を統一しやすいですし、料理の質が下がってもすぐ改善できます。現在、食材の95%は現地で調達し、輸入は魚や和牛、果物などに限っています。ほとんどタイの食材です。
タイは土壌が日本に似ていて、チェンマイなどでは京野菜を作っているぐらいです。お米もタイで3〜4種類は日本米を作っています。品質は日本とはちょっと違いますが、お米も全店同じお米を採用しています。あちらでは水が硬水なので、炊き方は浸水時間などをお米の専門家に指導してもらってやっています。

戸田 スタッフの教育とか、日本式のおもてなしやサービスの徹底は難しいのではないですか。

佐藤 めちゃくちゃ難しいです。スタッフレベルだと英語も通じないので、日本語が通じるスタッフをある程度雇って指導していく形になります。フードコート全体で75人ほどなので、組織を作って運営しています。大きな店舗なので通訳ができるスタッフも入れながら定期的にサービス教育を進めています。

国内と同じようにリサーチしなければ成功できない

戸田 現在、バンコク全体の日本食レストラン市場はどんな感じなのでしょうか。

佐藤 日本食レストランは、バンコク市内で1500軒ほど、タイ全体ですと2000軒あると言われています。そのうち、日本人がダイレクトに経営しているのは1割程度だと思います。それ以外は大手ブランドのフランチャイズ展開、といった感じです。「吉野家」や「CoCo壱番屋」「8番ラーメン」などはだいたいフランチャイズですね。
店舗数は多いのですが、タイから日本への観光客が年に30%ぐらいずつ増えていて、そういう人たちが「日本で食べた料理を食べたい」となると、味の違いやサービスの違いをはっきりと認識するようになると思います。タイでビジネスをするなら急に多店舗展開ではなく、独自性を持った業態でひとつひとつ出店し、将来的に20〜30店舗を作る。東京での店舗展開と同じような感覚でいいのではないかと感じています。

戸田 一気にチェーン展開をするのではなく、1店舗ずつ売り込んで満足させるということですね。

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▲日経BP社 日経トップリーダー事業開発部長 食ビジネス シニアリサーチャー 戸田顕司氏

佐藤 そうです。1年ぐらいタイで仕事していますが、最近はジュースバーとかコールドプレスジュースとかが流行しているほどで、とにかく取り入れるのが早いんです。流行っているブランドがあったら声をかけて持ってくるというスピード感がありますので、流行りものの業態で進出するのはしんどい。日本にある業態でいいものをそのまま持っていくというのが最もいいのではないかと思います。王道ですが。

戸田 成功しているチェーンとは別に、失敗の理由を伺いたいと思います。撤退したケースもあると思いますが、根本的な理由はどこにあると思いますか。

佐藤 直営、フランチャイズ、合弁など、進出形態はいくつかあります。いずれにしても、いちばんは「人」ですね。例えば直営で進出する場合「エース級の人材を必ず投入してほしい」と言っています。言葉が違うし、食習慣も違います。従業員をどうマネジメントすればいいかわからないので、店舗運営には国内マーケットと同じように人材を投入しないと勝てません。
フランチャイズの場合、フランチャイジーとの条件交渉だけでなく、人間としてちゃんと一緒にやれるのか、ちゃんと握手ができる相手なのか。それがないと勝手なことをやられたり、不満があるからといってロイヤルティを払わないといったことになりかねません。合弁も同じです。会社として海外に出るときに中途半端にやると、だいたい早期撤退することになります。
お金を出して1〜2人現地に送るけどほったらかし、というのではダメです。ちゃんとマネジメントしなければなりません。「このマーケットで勝っていくんだ」と社内で意識を共有した上で取り組んでいるところは、比較的うまくいっている気がします。

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戸田 日本の市場は厳しいが、アジアの市場は伸びているからと進出するケースもあると思います。国内がガタガタだと海外でも難しいのかなと思うのですがいかがでしょうか。

佐藤 僕は国内・海外で分けては考えないですね。僕がなぜ東京で仕事しないのかというと、僕のセンスで出店しても東京では勝負にならないなと考えたからです。では、どこでやったら勝てるか。マーケットを考えるときに言っているのが「日本と同じように海外のマーケットを考えられるぐらいまで考えないとダメ」ということです。
東京で成功している企業は、業態がしっかりできていて「ここで出す」と決めたら交通量を見て周りの客単価を見て……と、相当リサーチしていますよね。これは海外でも同じです。それをやらずに出て「後から何となくアジャストする」といっているところは、苦しむケースが多いように思います。
ASEANだろうが他のアジアだろうが中国だろうが、日本より難しいに決まっています。そのマーケットを考えたときに、東京に進出するよりいいのか、そもそも自分たちの業態がウケるのか、冷静に判断することが重要です。

戸田 「アジャスト」というのは「味」を現地に合わせるということですか。

佐藤 味の場合もあれば、ポーション(1皿の分量)、値段、サービスのスタイルなどの場合もあります。タイで感じるのは、3年前と今で比較すると、より価格に対してシビアになったということです。「日本食は高く出せるだろう」と思いがちですが、価格が高いと売れません。
日本では食事が安いですよね。何を食べても1000円以内なのに、それを知っている人に1500円でラーメンを出しても売れませんよね。僕らも競争力を付けないといけないのです。食材に自分たちの手を出そうと思ったのはそれが理由です。タイで簡単に手に入れられるものだけでやろうとすると高いし、卸も価格競争力がありません。

戸田 市場は大きいし、海外視察した人は人口がいて熱気むんむんで進出したいと思うけど、ハードルは高いですね。

佐藤 ハードルは高いですが、当たるとインパクトが違います。プロモーションも、圧倒的にSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)が強い。日本では単純にお店の情報を見ただけでは行きませんよね。でも、タイの人は広告にも普通に「いいね」を押しますし、友だちがちょっとお勧めしたら行ってみるなど、割と動きが速いのです。日本に比べてSNS広告の費用対効果は高いですね。Facebookでの反応も日本とは全然違っていて、情報の伝播にスピード感があります。

インドネシアやフィリピンなど人口の多い市場に期待

戸田 他のASEAN地域も見ていると思いますが、可能性を感じるのはどこですか。

佐藤 やはり大きなマーケットですね。まず、約2億4000万人もの人口を持つインドネシア。それとフィリピンに注目しています。フィリピンも人口が1億人ぐらいいるんですよ。労働人口が出稼ぎしていてGDPが伸びない、治安が悪い、外資単独では入れないといった状況がありますが、富裕層が増えて国内需要が増えてきています。フィリピンにパートナー企業があるのですが、日本の業態をもっと出してほしい、フランチャイズを検討したいという話は増えています。
ベトナム進出の相談もたくさん来ますが、僕らからすると多店舗展開は土壌としてまだ早いですね。交通インフラの問題と社会制度の問題があって、大手企業でもなかなか他店舗化が進められないのが現状です。

戸田 フィリピンというのは意外でした。

佐藤 僕は東南アジアをメコン地域、シンガポールを中心としたシンガポール・マレーシア・インドネシアの地域、タイを中心とした地域の3つに分けて考えています。
そのなかで僕らがなぜタイからスタートしたかというと、タイは陸続きでラオス、ミャンマー、カンボジア、マレーシア、ベトナムなどにも行けます。欧州やロシアからも地続きで、これから交通の便がよくなるだろうと考えて、タイを中心に周辺国に広げる戦略を立てているのです。
逆にシンガポールなどでスタートした会社は、マレーシアやインドネシアに行くのが順当な方向なんじゃないかなと思っています。インドネシアでもお金持ちが病院に行こうとするとシンガポールに行きますので、シンガポールで流行っているものをインドネシアでやるのが発想としてはリーズナブルです。人の面やマネジメントの距離感などを考えても、シンガポールでやるならインドネシアを目指すのがいいかなと思います。もちろん、マレーシアもいいマーケットです。

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戸田 いろいろな地域で可能性があると思いますが、どこの地域にどう進出していくのかーー日本で出すのと同じように、現地の人の流れやどういう業態が合うのかを見て、実際に出したらアジャストしていくのを繰り返すということですね。

佐藤 そうです。やっぱり東京はすごいマーケットですよ。アジアのどこを見ても東京ほどのマーケットはありません。同じ面積の中にある店舗数などを含めても、日本はすごいです。
1971年にマクドナルドが日本に進出してから、40年ぐらいでものすごく進化してきました。東南アジアはインターネットが日本より先に整備されているので、おそらく日本の半分ほどのものすごいスピードでマーケットが醸成されていくと思います。
ということは、日本を鏡にして見ていったり、他の地域同士を比較していくと、今この地域がどのステージにいるのか何となく分かってくるはずなんです。そのときに足りないものは何か、これはこうなるだろうという予測に基づいて進出するのが戦略的には正しいやり方です。だから僕はいつも東京では何が起きているのかというのを意識して見て、比較論で考えています。

戸田 東京で起きていることは、何年後かにはミャンマーでも起きるだろう、その間にはタイのバンコクなどでも起きるだろうということですね。

佐藤 そうです。後は、タイとシンガポールで比較したりとかもします。2つ、3つの拠点ぐらいで比較すると、すごく分かりやすいかと思います。味覚とか食生活とかを比較しながら戦略立案をやっているという感じです。東南アジアは成長率を見るとこれからどんどん伸びる市場なので、ぜひチャレンジしていただきたいですし、お役に立てることがあればと思います。

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著者プロフィール

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安蔵靖志
IT・家電ジャーナリスト 家電製品総合アドバイザー。AllAbout 家電ガイド。ビジネス・IT系出版社を経てフリーに。記事執筆のほか、テレビやラジオ、新聞、雑誌など多数のメディアに出演。KBCラジオ「キャイ〜ンの家電ソムリエ」に出演中。日経DUALにてコラム「使って、作って、食べてみた! お弁当男子×家電」を連載中。

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