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連載
2018年4月27日

若き経営者たちの夢〈13〉大谷順一氏(株式会社一歩一歩)

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近年、住みたい街として注目を集める東京都足立区北千住。このエリアに8店舗のドミナント展開をする株式会社一歩一歩の大谷氏の夢に迫った。2007年11月オープンの炉端焼き「一歩一歩」からスタートし、寿司店、カフェなどバラエティに富んだ出店で、地元密着にこだわり、北千住の街の賑わいに寄与する同社。今後はどのような展開を考えているのだろうか。


大谷順一氏

地元の他の業界人たちと切磋琢磨する

――独立するまで、どのように仕事をしてきましたか。
20歳で懐石料理の店に入ったのが飲食業の第一歩です。そこで厳しく鍛えられて、23歳で高級店に転職し、すぐに料理長に抜擢されました。手作り弁当を始めたところ人気になり、売上も6倍くらいになりました。

次に創作居酒屋に転職しました。オーナーから「好きにやってくれ」と任され、本物の味にこだわろうと昆布から出汁を取るなど手間を惜しまない料理を提供しました。売上が1.5倍にも上がり、お客さまは違いが分かるんだなと思ったものです。

その後「北千住に出店するので責任者になってほしい」とお声がけいただいたのが北千住とのご縁です。3年間頑張った後、念願の独立を果たし、一号店となる「一歩一歩」をオープンしました。

――その後、北千住にこだわるようになったのはなぜですか。
一号店のお客さまから「お前は北千住に残ったほうがいい」と言われたのがきっかけです。また、北千住の面白さは、飲食店ではなくスーパーなどの小売業がライバルになることです。近隣に暮らす方々が「どの店に行こうか」ではなく「家で食べるか、外で食べるか」と考えるためです。

そこで、まずはスーパーに足を運び、売場をよく研究しました。マコモダケや赤茄子といった当時スーパーで扱っていない野菜をメニューにしたところ、「家では味わえないメニューが楽しめる」と評判になりました。すると、スーパーの方たちが来店するようになり、当店で扱う野菜がスーパーでも販売されるようになりました。

次に当店の接客がいいと評判になったら、アパレルの方たちもどんな接客なのだろうと来店するようになりました。こんな具合に一号店は北千住の方々にとって衝撃だったのでしょう。私自身も彼らに刺激をいただき、次第に業種を超えて切磋琢磨するようになりました。

――そこで、北千住でドミナント展開するようになったのですね。
正直なところ、自社でお客さまの取り合いになるのではという怖さもありましたが、業態を炉端焼から寿司に変えた4店舗目の「にぎりの一歩」を出店した時は、怖さを断ち切って、前向きに頑張ろうと気持ちが切り替わりました。それ以来、全体の売上が安定し、北千住の方たちから「一歩一歩が北千住を変えてくれた」ということを言われるようになり、さらに地元の役に立てるようになりたいと考えるようになりました。

――繁盛の様子が伝わると、都心のビルに出店することを誘われたりしませんか。
丸の内などは憧れの立地です。誘われるたびにやってみようと思いがどんどん募りましたが、都心で商売をする勇気がなくお断りしました。今となれば、やらなくてよかったと思っています。

都心は家賃が高いですし、思うように売上が上げられなければ、北千住の店に影響します。FLコストを2%下げることになればクオリティに影響してきます。こうなると都心も北千住も共倒れしてしまいますから。

商店街を復興させるのが当社の役目

――今、北千住ドミナントで心掛けていることはどのようなことですか。
北千住には8店舗ありますが、お客さまに店を回遊していただきたい。そのために、それぞれの店のストーリーを別々にしています。多店化をしても同じ店をつくりません。同じになりがちなドリンクも、店ごとに種類や注ぎ方、器など、その店にベストなドリンクを提供するようにメニュー開発を行っています。

――これから出店でこだわっていきたいことはどのようなことですか。
北千住に商店街をつくりたいと思っています。私が小さかった頃は、魚屋さん、肉屋さん、豆腐屋さんと、小さな店が軒を並べて、商店街が賑わい、人と人の繋がりが強かったように感じます。当社が魚屋さん、肉屋さん、豆腐屋さんをやり、商店街を復興させたいと思っています。

4月26日に魚屋さん「魚屋ツキアタリミギ」をオープンしました。昼は昔ながらの魚屋さんとして、店頭で刺し身や、総菜、あら汁などを売ります。このようなスタイルはご高齢の一人住まいの方たちのお役に立てると考えています。夜は飲食店として営業します。魚のグラム数で値付けたり、肉厚で大きなアジをフライで提供したり、お値打ち感のあるメニューをバンバン売っていきます。

――商店街に注目するのはなぜですか。
商店街が賑わうことで集客のチャンスが高まるからです。また、ITが進むにつれ、リアルなコミュニケーションが薄れていきます。昔の商店街の和気あいあいとした賑わいの中にたくさんのチャンスがあると思っています。

若者にとって飲食業は「起業」という夢を託すことができます。そこで、このような飲食店の夢が結集すると商店街を復興すると思います。

最近、スーパーの店内で飲食を楽しめるグローサラントが注目されていますが、私は、グローサラントを北千住全体で実現できたらと考えています。実現できれば北千住の魅力を高まりますし、それが自分の役目だと思うようになってきました。

地元密着で社員独立を進めたい

――地元密着を進めて、社員独立とかキャリアプランをどのように考えていますか。
3店舗目までは自分の分身をつくるという発想で社員教育に取り組んできましたが、4店舗目からは、数字管理、マネジメント教育も必要だと考えるようになりました。現在、沖縄の店を含めて10店舗ですが、今では経営者を育成するための教育をしている感覚になっています。

例えば、20店舗目の段階になったら、そのうちの10店舗は独立した元社員に任せるイメージです。直営は現状の10店舗のままで、以降は社員独立で個性がはっきりとした店が増えていくという状態を目指しています。残念ながら一歩一歩はチェーン店だと言われることも出てきました。このような言われ方が進むと、各店舗への期待が薄れていくのではと心配しています。ですから社員独立によって個性的でバイタリティのある店を増やしていきたい。

社員独立制度では、仕入れを当社で一括し、メニュー開発も一緒に行うことで、生産性向上という大きなメリットが生まれます。このような具合に、地元密着のドミナントには大きな可能性が潜在していると思っています。

【編集後記】千葉哲幸のコメント
大谷氏の「一歩一歩」はオープンしてすぐにサービスが秀逸な店として評判になった。野菜の焼き物にこだわり、野菜を籠に入れた若いスタッフが一生懸命に特徴を説明する様子や、おしぼりの渡し方のタイミングを見るために、遠方から多くの人が訪れた。その大谷氏は居酒屋甲子園の5代目理事長として、第10、11回の指揮を執り、「クールローカル」(地元密着はかっこいい)というテーマを訴えた。「すべてはお客様の喜びのために」という経営理念は、地元のお客さまにとってはなくてはならない店を育てている。

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千葉哲幸
この記事を書いた人

フードフォーラム代表。
柴田書店『月刊食堂』と、そのライバル誌である商業界『飲食店経営』の編集長を歴任するなど、フードサービス業の記者歴35年。業界関連の取材・執筆、書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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