飲食店で働く人のための情報マガジン by トレタ

連載
2018年5月25日

若き経営者たちの夢〈14〉中村正利氏(ドリーマーズ株式会社)

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外食産業を牽引する経営者たちの夢に迫る企画の第14回は、ドリーマーズ社長の中村正利氏である。同社メインの業態であるホルモン焼き居酒屋「串屋横丁」は、まるで頑固おやじが営む個人店の雰囲気を持ちながら42店舗(うち直営12店舗)を展開する。その最大の特徴は、看板商品の「スーパーホルモンロール」120円(税別)をはじめとしたコスパの高さだ。これらの秘訣について伺った。


中村正利氏

がむしゃらに働き4年間で借金4000万円を返済

――飲食業をはじめたのはどのようなきっかけですか?
私の人生は波乱万丈です。飲食業はそんな過程の中で取り組んだことです。

まず、ペンション経営に憧れ調理師学校に進み、東京・西麻布のイタリアンレストランに就職して料理人となりました。1年で退職して、ドトールコーヒーに入社しました。これは同社創業者の鳥羽博道氏の本を読んで感銘を受け、鳥羽さんの元で仕事をしたいと考えたからです。4年間工場で生産管理に携わりましたが、その緻密な考え方は今日私が事業を組み立てる発想の原点となっています。そして、当時隆盛していたIT企業での独立を夢見て、歩合制の営業マンとして3年間働き資金を貯めました。それを元手に、1996年4月にIT企業を設立しましたが、5年後に事実上の倒産状態となってしまいました。32歳で会社と仕事、そして信用の全てを失い4000万円の借金だけが残りました。そこで人生をやり直すために2003年に居酒屋を始めました。

私はそれまでの経験から人生を生き抜く「コツ」というものを覚えました。ですから、当時は微塵の不安もありませんでした。居酒屋経営にがむしゃらに取り組んで、4年間で直営店を7店舗に広げ、借金を返済しました。

――「串屋横丁」は頑固おやじが営む雰囲気ですが、モデルとした繁盛店に勝つためにどのようなことを行ないましたか?
新規参入のため、串打ちの仕込みから全て店舗の中で賄う必要がありました。昔ながらの生業店は店が持ち家である場合もありますが、こちらは家賃を払います。こんな状態では店の生産性は上がりません。そこで「串屋横丁」をビジネスとして継続させていくために、次のようなステップで店の体制を整えていきました。

まず、「理念教育により高いモチベーションを持ったチーム作り」。これに10年以上を費やしました。次に「トレンドに左右されない業態作り」。これは業態寿命という言葉とは無縁の「もつ焼き屋」としての商品力とお値打ち感を磨き上げました。そして「業界平均の何倍も利益が出る仕組み作り」を行いました。

徹底的にコストを削減し給与に反映する

――具体的にはどのようなことを行なったのですか?
もつ焼き屋を営む上でかかるコストや費用を徹底的に削減しました。まず、もつを養豚農家からの直接仕入れにしました。仕込みの工場を作り、メニューも減らし、仕込みの労働時間や商品のロスを減らしました。また、厨房面積を小さくし、坪当たりの席数を大幅に増やし、結果一席当たり家賃を低減しました。同規模で競合するチェーン店では建築費が3000万円とも言われるのですが、このコストも切り詰めました。

加えて、次回ファーストドリンクが無料になるなどの特典をつけたドリンクパスポートを設けることで、無駄な宣伝広告費を全廃しました。このような効果で2等、3等立地でも集客を可能にして、家賃も低減しました。

こうして、非常識とも言えるような「串屋横丁」の給与の仕組みをつくり上げました。これは頑張って利益を生み出す社員には歩合を付けるものです。コスト削減した分を歩合に当てているので、値上げや会社の利益を削ることなくこの制度を実現できるのです。

――従業員を厚遇して、努力に報いているということですね。
20代で年収1000万円を超える店長もいます。だからと言って、当社は決して拝金主義ではありません。お金というものの本質を考え抜いた結果の仕組みです。お金は極めて尊いものです。「社会に対してどれだけの価値を生み出したか」という証なのです。ですから、自信と誇りを持ってお金をたくさん稼ごう。こんな思いで創業から今まで突っ走ってきました。

一方で、常に危機感も抱いています。このような制度はただの道具に過ぎず、使い方が下手なら売上も利益も上がりません。だからこそ、理念教育によって高いモチベーションを持ったチーム作りが重要だと思っています。

――これから「串屋横丁」はどのように成長させていこうと考えていますか?
国内数千店舗とか、中央集権型チェーンを志向していません。永続的に繁栄させるために、5~10店舗のオーナーが数多く存在するアメーバ型チェーンを目指し、2015年4月から「串屋横丁経営実践塾」を行っています。これは有志を対象にしたオーナー育成の場で、2020年までに毎月1回、全60回のカリキュラムを行います。塾生は当社の社員や加盟店オーナーなどさまざまですが、共通の経営目標は「10店舗出店、売上6億円、経常利益1億円」です。高い生産性を整えた「串屋横丁」のオーナーにとっては決して大きすぎる数字ではありません。年収1億円も現実的な目標となるのです。

「人生のROI」を考えて今を生きよう

――串屋横丁経営実践塾ではどのようなことを伝えているのでしょうか?
まず、私が自分の経験をもとに経営を継続させるための考え方、行動の仕方を話します。次に、塾生の中で業績が好調の人が数字を公開し、その要因について発表します。また、ナンバー2の育て方とか、人材の獲得方法などについて、現在試みていることや成功体験を塾生それぞれが語り共有化しています。 

経営に大切なことはROI(投資収益率)です。つまり、投資額の何%を1年間で回収できたかということです。ROIは高ければ高いほどいい。これを人生に当てはめようと、一貫して訴えています。

――中村社長が考える「人生のROI」とはどのようなことですか?
20代は修業時代、投資期間です。人生においての投資とはお金と時間。リターンもお金と時間。少ないお金と時間を最大限効率的に使って、残りの人生に大きなお金と豊かな時間という大きなリターンを得ようということ。ですから、20代はリターンを想定したお金と時間の使い方をするべきです。

――中村社長の「人生のROI」はどのようなものですか?
私の20代30代は、車も洋服もギャンブルにも全く興味がありませんでした。これらは投資ではなく単なる消費であり、リターンはありません。飲食業で生きて行くと決めた30代以降は人脈を築くことに投資をしましたが、興味のない人との付き合いは投資ではなく時間の浪費だと考え、極力断ってきました。

人生はバランスです。若い時に投資をしなければリターンはありません。皆さんには仕事を通じて人生における投資と大きなリターンを実現して欲しいと願っています。

私は近い将来セミリタイアをして、自分の夢であった世界の肉の食べ歩きをしたいと考えています。こんなことができるのは飲食店のオーナーならではですし、これまでに私自身が50歳をひとつの区切りと考えて、そこに向かってがむしゃらにやってきたからです。もちろん、私がいなくとも「串屋横丁」はモチベーションの高いオーナーと従業員によって、お客さまから喜ばれる店であり続けると確信しています。

【編集後記】千葉哲幸のコメント
2017年の春、「串屋横丁経営実践塾」にお邪魔した。土曜日の昼過ぎに20代から50代まで約20人、直営店、加盟店の店長が中村氏の話に真剣に聞き入っていた。良い数字を挙げた事例については、その店長を称えるだけではなく、その成果の背景を分析して共有化することを徹底していた。そして15時頃に塾は終わり、参加者はお互いしばらく近況報告を行って、それぞれ開店準備に向かっていった。中村氏の商売に対する真摯な姿勢が着実に受け継がれていると感じた。

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千葉哲幸
この記事を書いた人

フードフォーラム代表。
柴田書店『月刊食堂』と、そのライバル誌である商業界『飲食店経営』の編集長を歴任するなど、フードサービス業の記者歴35年。業界関連の取材・執筆、書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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