飲食店で働く人のための情報マガジン by トレタ

連載
2018年5月1日

ドラマのあるレストラン 〈第4話〉女優の卵と迫る外国人に人気の秘密「開花屋」

この記事をシェアする

これまでのお話はこちら

外国人がなぜにこんなにも多いのだろう?と思う店に時々出会う。もちろん、その店が提供する食事が外国人に合っているというのもあるだろうが、それだけとも限らない。店内には有名外国人のサインが飾られていたり、店内の半分以上の客が外国人の時もある。店員が英語と中国語と日本語を喋りながら注文を取っているのを聞いた時には驚いたりもする。しかし、なぜいつも外国人だらけなのか? 2年後にオリンピックを迎える国際都市TOKYOとはいえその店の外国人比率の高さの謎に迫ってみたくなった。今回の相棒は僕と同郷の女優の卵だ。

外国人が集う「渋谷・神泉町・開花屋」

「レッスンの後に食事でもしませんか?」

と言っておきながら、プロデューサーが女優の卵を食事に誘う言葉にしては何ともストレートだし誤解を招きかねない。30歳くらい年下の、自分の娘と同年代の女性を誘う言葉としたら…。

「最近、お魚食べてますか?」

愛知から上京したばかりの彼女にそう投げかけてみた。一人暮らしを始めたばかりの20歳そこそこの時、自分だったら何が食べたかっただろうか?そう考えたのだ。とはいえ、投げかけたそのフレーズもまるで安い寿司チェーンのCMのキャッチコピーみたいだ。

「お魚、ぜひお願いします!」

と返事をもらい、ある店を思い出した。渋谷の神泉町にある『開花屋』だ。実際、僕が普段からよく使うこの店は本当に海鮮系が美味い。そしてなぜか外国人の客が多い。そして、なかなか予約が取れない。レッスンの日程が決まった時にすぐに店に電話をした。

「入って右奥の端っこのテーブルを」
「8番ですね」
「そう。その8番を」

女優の卵とはいえ、それなりに気を使う。個室のない店なら、端っこの席にしてあげたいと思うプロデューサーの習性だ。その日は3時間ほどのレッスンを終え、お腹も空いたところで店に向かった。外から店内を覗くと、ほぼ満席状態だった。扉を開け、店内に入ると「いらっしゃいませ!」と大きな声が出迎えてくれた。しかし、右奥の端っこのテーブルを見ると、金髪の白人女性のグループがすでに着席していた。

「え? 8番は?」
「すみません。今日は7番で」

と、隣のテーブルに通された。「何の手違いだ? 予約の意味がないじゃないか」と心の中で呟きながら、もう片方のテーブルを見るとそこからはフランス語らしき言葉が聞こえてきた。せっかく気を使ったのに。外国人客たちに挟まれる形で僕らは7番テーブルに座った。

彼女の一言であっという間に解けた謎

「ここはなぜだか外国人のお客さんが多くてね」
「ガイドブックか何かに載ってるんですかね?」
「あ…」

彼女の一言で、入店後数分でその謎は解けてしまった。まるで以前プロデュースしたドラマ『33分探偵』状態である。放送開始5分で犯人が分かってしまい、いかに主人公の探偵が放送時間いっぱいまで物語を持たせるか?というコメディーだった。外国人客の多さの謎に迫るミッションはあっという間に完遂されてしまい、僕としてはあとは料理の美味しさで持たせるしかなくなった。

8番を取ってなかったことを責めることもなく、店員に注文を始めた。「お刺身の花盛りと…」といつものように注文をし始めて彼女の方を見た。「お任せします。タコとキノコ系以外なら」とにっこりと笑ったのを確認し、この店の名物の一つ『タコネギジュー』と『エリンギジュー』という鉄板料理をスルーした。一人暮らしには野菜も必要だと野菜が多めのサラダを一つと、絶対に食べてもらいたい『マグロのカマのスペアリブ』をひとまず注文した。

「どう?お芝居は楽しい?」
「楽しいです」
「そう。なら大丈夫。楽しくなかったら続かなくなるからね」と、もっともらしいことを言ってしまったと反省していると、
「でも難しさも見えてきました」と彼女が言った。

話を聞くのも自分の役目だと一杯目のビールを飲みながら黙って彼女の話に耳を傾ける。と行きたいところだけれど、左から英語が、右からフランス語が聴こえてくる。遠くのテーブルからは大きな笑い声の外国人客の声が響いてくる。そんなことには関係なく、セリフと感情の連動や、動きながらセリフを言う難しさに悩んでいると彼女が真面目に話していると、『刺身の花盛り』がサーブされた。

「わぁ」

と彼女が笑顔になった。店員が魚の種類を説明し終わる頃に一杯目のビールが空いてしまった。

「僕は白ワインにするけど。飲みますか?」
「お魚には白ですよね。赤は苦手なので、白なら少し」

確かに、刺身から始まるここのメニューで赤に行ったことはない。白のボトルワインを注文し、二つのグラスに注いだ。そして、軽く乾杯をした。新鮮なここの魚に白ワインは本当によく合う。刺身を5種類食す間に2杯目のワインを注いだ。外国語の喧騒に刺激を受けてか、ワインも手伝って僕も饒舌になっていった。

夢を開花させる方法

「毎日を忙しく過ごしてしまうと、それに満足してしまう」
「はい」
「だから、目標をしっかりと立てるといい。例えば『三年後に私はこうなっていたい』いや、『こうなっている』と断言すること。できればそれを紙に書いて毎日見る部屋の何処かに貼っておくとかね」
「はい。実は最近、中国語も習い始めました」
「いいねぇ。海を越えるわけだ!」
「はい!」

そうこうしていると『マグロのカマのスペアリブ』がサーブされた。ここの一番の名物だ。店員がスプーンとフォークを使い見事な手さばきでそれをほぐしていく。柔らかくほぐれたマグロのカマが特製のタレに浸って格別の味わいを見せてくれる。

さっきの話には続きがある。仮面ライダーに憧れた新人俳優にライダーのオーディションを受ける直前に面談し、同じことを言った。家に帰った彼はすぐさま『俺は仮面ライダーになる!』と紙に書いて部屋のドアに貼り、オーディションまで毎日その誓いを目にした。一ヶ月後僕の元に知らせが来た。彼は見事オーディションに合格し、本当に仮面ライダーになってしまったのだ。

まるで自分が凄いかのように彼の話を彼女に聞かせながら、締めの牛肉の握りとお味噌汁にたどり着いた。最後に店員が彼女に声をかけた。

「なんだか、お綺麗な方ですね」
と。毎日外国人相手なら当たり前のセリフだろう。しかし、僕はすかさずこう言った。

「彼女の顔、覚えておいてね」
会計を済まして、近くの駅まで彼女を送った。

名作ドラマのワンシーンのような別れ

「今日は有難うございました。お疲れさまです」
「お疲れさま」

お互いに別方面のホームへと降りていく。反対側のホームに彼女を見つけた。「おいおい、ここで彼女が向こう側から何か叫んだりしてきたら、『東京ラブストーリー』か『愛という名のもとに』ばりの名シーンになるぞ!」などと思っていたら彼女側のホームに普通に電車が滑り込んだ。電車が発車すると彼女の姿はもうなかった。

自宅近くの駅に着く頃、彼女からお礼のメールと写真が送られてきた。その写真には部屋の壁に貼り付けた『3年以内に主演女優になる!』と書かれた紙が写っていた。

勢いのある店には、人を勇気づける何かがある。様々な国から集まった人たちのエネルギーがもしかしたらそんなパワーをくれたのかも知れない。と、勝手に思ったお話でした。

美味しい料理と素敵な空間が幸せな時間をくれる。
さあ、次はどんなお店に行こうかな。

■第4話のお店
開花屋 

これまでのお話はこちら

■おすすめ記事

若き飲食経営者たちの夢〈2〉花光雅丸氏(株式会社subLime)


大野先生の飲食店開業に必要なお金講座【1】借入はリスクではありません!

この記事をシェアする
森谷 雄
この記事を書いた人

もりや たけし 1966年2月24日愛知県生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、テレビドラマの世界へ。プロデューサーとして、「天体観測」('02/フジテレビ)、「ザ・クイズショウ」シリーズ('08・'09/日本テレビ)、「33分探偵」シリーズ('08・'09/フジテレビ)、「深夜食堂」('09/毎日放送・TBS)、「コドモ警察」('12/毎日放送)、「みんな!エスパーだよ!」('13/テレビ東京)などのドラマを手掛ける。映画の主なプロデュース作品は『ロッカーズ ROCKERS』('03/陣内孝則監督)を皮切りに、『シムソンズ』('06/佐藤祐市監督)、『Little DJ〜小さな恋の物語』('07/永田琴監督)、『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』('08/塚本連平監督)、『シャッフル』('11/及川拓郎監督)『しあわせのパン』('12/三島有紀子監督)、『ぶどうのなみだ』('14/三島有紀子監督)、『曇天に笑う』(‘18/本広克行監督)。
監督作品には『サムライフ』('15)、『アニバーサリー』(‘16)がある。

おすすめ5選

新着記事