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連載
2018年4月5日

若き経営者たちの夢〈12〉合掌智宏氏(株式会社funfunction)

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外食産業を牽引する経営者たちの夢に迫る企画の第12回は、2006年11月創業の株式会社funfunction代表取締役の合掌智宏氏である。地方のおいしい食材を東京の飲食店が提供する「ご当地酒場」を中核事業として展開している。しかも、産地は旧来の名前が知られたところではなく、食材のおいしさを優先して取引している。このひたむきさで『ミシュラン』のビブグルマンに2年連続で認められた店舗もある。同社を率いる合掌氏に「夢」を聞いた。


合掌智宏氏

東京進出の店長が東京で独立開業

――独立のきっかけをお聞かせください。
25歳で出身の福井市の飲食店に就職しました。翌年、会社が東京進出をし、立ち上げ店長を任されました。1年半ほどで東京に3店舗展開しました。

入社当時から会社には「将来独立したい」と伝えていましたし、東京での経験で自信がつき、独立に至りました。

――独立してからどのように展開しましたか。
独立1号店の「ホルモン酒場合掌」は、200万円ほどしか資金がなく、サブリースでオープンしました。3店舗まで展開を広げ、業績は悪くありませんでしたが、どこにでもある店というイメージにいつも悩んでいました。

そんな時、幼馴染が「ここの町の食材はおいしいよ」と北海道八雲町の食材を送ってくれたのが、ご当地酒場の着想のきっかけでした。

――当初から行政を巻き込むことを考えていましたか。
北海道八雲町の食材のおいしさに魅了されましたが、私自身も北海道八雲町を初めて知ったくらいでしたから、行政は知名度の低さが壁になりPRでご苦労されているのではないかと勝手に考えていました。

「北海道八雲町」の1号店のある三越前は、自治体のアンテナショップが多く、地方食材に感度の高い方々が集まるエリアです。役場の方にも立地の良さを魅力に感じていただけると思いましたし、ご当地酒場というアイデアは双方にとって素晴らしい機会ではないかと、2009年、突然、役場に電話をしました。結果として、ここから行政とタッグを組んでいくことになります。

最初は、補助金目当てだと思われていたようですが、次第に私たちの熱意が伝わり、話を聞いてくださるようになりました。役場の方は「最初から役場の公認は難しいが、全面的にバックアップします。オープンした店舗の様子を見て、公認かどうかを決めさせて下さい」と言って下さいました。そして、オープンから半年後に、町長から公認を頂きました。

生産者とお客さまを店の中でつなぐ

――食材の魅力をどのように伝えたのでしょうか。
食材だけでなく生産者の顔を知っていただくことが大切です。オープンしたばかりの頃に、店舗に生産者をお招きしホタテのふるまいを実施したのですが、お客さまからライブ感があると評判でした。同時に生産者にとっても有意義だったようです。

これまで生産者は、自分たちが育てたホタテをお客さまどのような表情で食べているのかわからなかった。それが、お客さまの反応を目のあたりにすることで、さらに自信のあるものを育てたいという意識が芽生えたといいます。

当初は、年輩の生産者が実演を行っていたのですが、手応えを感じたようで、若い世代の生産者を10人くらい引き連れてきて大きなイベントに盛り上がっていきました。このような動きに私たちも刺激を受け、食材をもっと大切にしようという意識が沸き上がりました。

――北海道八雲町の後、北海道厚岸、佐賀県三瀬村、福井県美浜町、高知県芸西村と産地が増えていますが、どのようなきっかけで増えるのですか。
 北海道厚岸町は、北海道八雲町のお客さまが「北海道で一番おいしい生牡蠣を食べたい」とおっしゃったので、北海道で産地を探したところ厚岸町と巡り合いました。牡蠣がとんでもなくおいしいというのが第一印象でした。

 次に佐賀県三瀬村は、本当においしい焼き鳥店をつくろうと、たくさんの種類の鶏肉を食べて、研究を重ねました。名の知られたブランド鶏から、次第に無名の鶏肉となっていく。そうして巡り合ったのが佐賀県三瀬村のふもと赤鶏です。偶然にも産地側でもこれから積極的に売り出そうとしていた段階でした。

 福井県美浜町は、熟成魚というあまり知られていない地域の食文化を東京で提供することにとても興味がありましたし、高知県芸西村は、鴨料理の店を出そうといろいろな産地の合鴨を食べ続けていた時に、「ここの鴨は特別なもの」という感覚がありました。

食材は、自分たちで選びたいという思いがあり、私たちが主導となって食材探しを行います。行政からアピールをされてそこから動き出すということではあまりありません。

――御社は、東京の飲食業が地方創生を支援するという形の先駆けであることを感じますが、これからエリアを広げていくのですか。
地域活性化は取り組んでいきたいテーマですが、それよりも熾烈なマーケットの中で当社が勝ち続ける継続することが先決です。その上で、地域に貢献できればと考えています。

「カキ酒場北海道厚岸日本橋本店」が『ミシュラン』2016年度、2017年度と連続でビブグルマンに認定されましたが、それは厚岸の牡蠣そのものの素晴らしさがあってのことです。厚岸の牡蠣は海水で育てた後に汽水湖に移すという手間暇をかけてつくっています。こ牛うした生産者の努力をお客さまにきちんと伝えることが私たちの役目です。

東南アジアの日本食は専門性が求められている

――海外で展開するようになったきっかけはどのようなものですか。
シンガポールを初めて訪れたときに、想像していたよりも日本食が成熟している印象があり、このようなところで日本食レストランを展開してみたいと思ったことがきっかけです。

シンガポールでは、専門的な日本食が受けると思い、現地に詳しい日本企業と合弁会社をつくり北海道の食材をアピールする「北海道酒場」を2015年12月に出店しました。厚岸町、上士幌町、富良野市、幌加内町、八雲町の5市町公認・応援の店です。

――「日本」でなく「北海道」というネーミングで現地のお客さまに何が伝わっているのでしょうか。
シンガポールでは「北海道は食べ物がおいしいところ」だと知られています。北海道食材を目当てにしたリピーターも増えて繁盛しています。東南アジアでの展開は2号店もシンガポール、3号店がジャカルタ、4号店が香港、5号店がクアラルンプール。直営は1号店だけで、他は全てFCです。

――海外で展開することで何か効果を感じていますか。
そもそも、クオリティの高い日本の食材を海外に持って行ったらどうなるか、ということから始まったのですが、それらの食材は現地の方々に受け入れられ、海外の業者の買い付けも増え、仕入れ値が高騰してきています。生産者の年収が3倍になったという事例も聞きます。仕入れる側の私たちにとって高騰は喜んでばかりもられませんが、これから増産体制に入るでしょうから、仕入価格も安定するでしょう。

東南アジアで展開する店の繁盛を見ていると、特に中華圏の人々に日本のクオリティの高い食材が知られることによって、日本の生産者のチャンスが広がるのではないかと思っています。

【編集後記】千葉哲幸のコメント
合掌氏と初めて会ったのは2012年8月、「カキ酒場 北海道厚岸日本橋本店」のレセプションであった。朴訥とした雰囲気で真面目さが伝わってくる人だった。この日は厚岸町の町長はじめ、行政や生産者の要人が集まり、合掌氏は30代半ばながら揺るぎない信頼を培っていることを推察した。厚岸に限らず、同社の産地開拓は産地の熱心さとおいしさを基軸に進められている。海外戦略も進め業容を拡大している合掌氏であるが、相変わらず朴訥と話す姿からぶれない経営姿勢が伝わって来た。

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千葉哲幸
この記事を書いた人

フードフォーラム代表。
柴田書店『月刊食堂』と、そのライバル誌である商業界『飲食店経営』の編集長を歴任するなど、フードサービス業の記者歴35年。業界関連の取材・執筆、書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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