飲食店で働く人のための情報マガジン by トレタ

連載
2017年12月27日

若き経営者たちの夢〈8〉 田子英城氏(株式会社ロット)

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外食産業を牽引する経営者たちの夢に迫る企画の第8回にご登場していただくのは株式会社ロット代表取締役の田子英城氏である。同社の設立は2001年12月で、翌2002年8月に1号店を埼玉県南部の埼京線戸田公園駅近くにオープンした。以来同社はこのエリアと近郊にこだわり、埼京線の戸田公園駅から武蔵浦和駅まで、武蔵野線の東川口から新座までを展開エリアとしていて現在は31店舗となっている。この東京圏ローカルにこだわる同社代表の田子英城氏に「夢」を聞いた。


田子英城氏

ロットが展開する埼玉県南部は、タワーマンションが立ち並ぶ「埼玉都民の街」である。つまり、近年再開発が進んだ人口急増地帯で、東京で働く人が多く住んでいる。このような環境の中で、ロットは各駅に同社の店舗を4店舗ないし7店舗出店している。これらの店には、似たような雰囲気の爽やかな若者がキビキビと働いていて、業種が違っていても同じ趣向を放っている。こうして、埼玉県南部には「ロットの空気感」が漂っている。また、ロットは4人の取締役がそれぞれの専門分野を分担していることが特徴である。このように同社の経営には新しさが存在する。

仲間と一緒に事業を起こす

――飲食業に取り組んだのはどのようなことがきっかけですか?
当社の取締役は、私の他に武山和裕、鈴木健史、山崎将志の4人ですが、最初に立ち上げたメンバーは当時22歳の私と武山23歳、鈴木22歳の3人です。私と武山は学生時代にアルバイト先で知り合って、将来一緒に事業を起こそうと、いろいろと話し合いました。

それが飲食業となったのは、私がアルバイトで多少経験があったこと、そして周りのメンバーからの後押しがあって決まりました。

私は地元戸田で育って、高校生になって都心で遊ぶことを覚えて、当時「自分の地元はダサいよね」と思うようになりました。そして、地元にカッコイイ店をつくりたいと思うようになりました。

1号店は2002年8月で、物件は偶然に見つけたものです。ボロボロでしたが造作譲渡ということもあり、契約には400万円を費やしました。そこで不動産屋さんから鍵を預かり、物件の扉を開けたところを、頭の中が真っ白になりました。「こんなのに400万円をかけて、俺はここから何ができるだろうか」ということです。

我々の仲間に料理をつくる能力はありません。かといってバーを開業するとなると、それは個人経営の方が向いている。私も武山も店主になるつもりはなく、店舗展開をしていきたいという思いがありました。

当時、ダイニング業態が隆盛していたこともあり、この業態にしようと思いました。そこで「カフェ&ダイニング」となりました。主体は夜ですが、創業のメンバーの中には「カフェをやりたい」という人もいて昼もきちんと売り上げる店を志向しました。

この時は、客単価も売上予測もきちんとしていなくて、今振り返ると無茶なことをやっていました。何かあったとすれば一つだけ、今でいう「コンセプト」がありました。それは「地元にはない、おしゃれで、全品490円均一という分かりやすく、地元の中では接客が一番いい」――この3つです。

ドミナント出店で街の需要が見える

――それが現在のようの埼玉県南部に集中出店するようになったのはなぜですか?
1号店の「Café&DINING SUN」が戸田公園駅で、その後東京・板橋、東京・光が丘と展開していくのですが、それが非効率であることを実感していきます。その後東京の2店は撤退することになるのですが、現在のような形になったのは、このような出店を猛省した結果です。

そして、決定的になったのは、2005年4月に出店した北戸田駅高架下の鉄板焼き「じゅうじゅう」です。当時の北戸田に「商業」と言えるものはジャスコ(現イオン)しかなく、他の二人はイケイケですが、私は非常に躊躇していました。

新規投資に使えるお金が1500万円あり、この範囲で新店ができるのであればやってみようとなりました。スケルトンの50坪で、どう考えても投資額が坪50万円かかります。それに加えてなんだかんだ4000万円かかるものです。それが自分たちで施工をしたことで奇跡的に1500万円で完成しました。この店が予想外にいい数字を上げたのです。このように自前で店を作ることを21店舗まで行っていました。

5店舗ぐらいの段階から3人の役割分担が決まっていきました。鈴木は飲食業のセミナーに通い現場を束ねる知識を養い、武山はビジネススクールに通って戦略的なことを学ぶようになりました。その一方で私は人材のマネジメントを担当するようになりました。

――出店に際してどのように業種を決めるのですか。
これまで飲食店がないところに出店してきましたが、常にどのような店を出せば、地域の方々に喜んでいただけるのかということを考えています。

去年おととしの間に東川口に集中的に出店したのですが、ここの場合は最初に総合居酒屋を出店して、ここで街のニーズを洗い出しました。すると不足しているものが見えてきて、洋食の居酒屋、焼き鳥店という具合に、1年間で4店舗のドミナントを作りました。

出店は埼玉県に集中することをコンセプトにしていますが、埼京線は中浦和の先に延びていく可能性はあります。各店の店舗運営については店長に任せています。店長が自分のつくりたいように店を作ることで店の個性をアピールしています。

チェーン店と明らかに異なることをアピール

――次世代に備えてどのようなことを行っていますか。
2016年6月までの中期経営計画で、埼玉県でナンバーワンの飲食業になるために30店舗体制にするという構想を掲げてきて、これを達成することができました。しかしながら、次の中期経営計画を立てるに際して、これまで出店を重ねてきたもののそれぞれの店舗が完成されていないことを実感しました。そこで「全店繁盛店計画」を打ち出して2021年を迎えようと進んでいます。それぞれの店舗には数値目標があって、それに向かって全社一丸となって取り組んでいます。

この繁盛店を作るための能力を誰よりも持っているのが取締役社長の山崎です。会社を再構築するために山崎を店長から社長に抜擢しました。山崎が不振店を立て直すために店長に就任すると、店のスタッフを引き継いだまま売上を2倍にするという実績があります。会社の誰もが「山崎はすごい」と認めていました。お客さまに喜んでいただくという思いが熱く、そのために熱心に行動しています。山崎は今それぞれの店舗の売上を上げるために、店長とコミュニケーションを重ねています。

私が社長を務めていた当時に「無駄な時間」と感じていたことは現場以外のあらゆる時間、いわゆる社長業の時間でした。とてもディフェンシブです。このような思いを山崎にさせないで、お客さまに喜んでいただくことにエネルギーを注いでもらう。会社の経営については私と武山が行う。そして、オフェンシブの部分は山崎と鈴木が現場と一緒に攻めていく。現在、このような形で経営を分担しています。

――社員独立制度に取り組んでいますか。
2018年から行います。当社の「葵」ブランドがその対象となるでしょう。これは小規模で客単価2000円程度の大衆業態をつくり込んだものです。投下資本が低く済むので独立に向いています。独立して店長兼オーナーで店舗運営する際に、小さな店であればやるべきことが見えているので、それをしっかり行っていれば繁盛します。

社長のイス争奪戦ということを1年間ほど行いました。これは店長が立候補できるものですが、自分の店舗とプラス2店舗をピックアップして売上を上げるということを競うもので、自店舗だけでなくほかの2店舗をアドバイスしながら売上を伸ばすということです。ここでは大きく売上を上げられる人はいませんでした。皆自店舗があり、自店舗の売上はある程度上げられるのですが、自分が現場にいない店は上げられない。ただし、自分が独立した場合、店舗運営に向かうパワーは強くなるはずです。

当社の店が軒を連ねているエリアは幾つかありますが、それはお客様に明らかにチェーン店と違うことを知ってほしいということ。多少金額が高くても、良い食材を使っていて、おいしくて、接客も素晴らしい店で食事をしてもらいたい。今は街を変えるということほどのことではありませんが、飲食業だけではなく別な事業で街づくりをしていくということに興味を抱いています。

私たちがとても面白いことだと思うことは、まだ未成熟で何もない駅前に立ち、飲食店を立ち上げると地元のお客様から喜ばれるということです。「こんな店を待っていたよ、ありがとう」――このような具合に地域の人に愛される店を作りたい。このような立地だと、店に対する評価がダイレクトです。間違ったことをするとお客さまは離れていきます。だからこそ、私たちも地域の人に愛されるようにと一生懸命に考えているのです。

【編集後記】千葉哲幸のコメント
私がロットの存在を気に掛けるようになったのは今から5年前、ある雑誌で埼京線の北戸田を中心に近郊の沿線で飲食店を展開している若い会社があることを知ったことからだ。そこで戸田に赴いた時に、掘っ立て小屋のような建物が繋がって、手書きの看板の飲食店が寄り集まっている場面に出合った。中に入ると、20代前半のスタッフがきびきびと元気よく働き、同年代のお客さまと楽しそうに会話をしていた。店内は贔屓目に見ても素晴しいとは言えない、ヘタヘタで構成されていた。この空間を見た時に「外食の多様化」を実感したものだ。チェーン店にはない、手作り感とヒューマンが満ちていた。私は時折ロットの店をはしごする。これらの店は業種こそ違っていても、同じテーストが感じられる。それは地元の人と共に生きているという感覚だ。このようにして地域社会に根を張るという路線を軌道にのせていることに、ロットの外食企業としての独自性を感じている。

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千葉哲幸
この記事を書いた人

フードフォーラム代表。
柴田書店『月刊食堂』と、そのライバル誌である商業界『飲食店経営』の編集長を歴任するなど、フードサービス業の記者歴35年。業界関連の取材・執筆、書籍プロデュース、セミナー活動を行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社発行、2017年)。

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