飲食店で働く人のための情報マガジン by トレタ

連載
2017年11月9日

ドラマのあるレストラン 〈第2話〉回想シーンに浸りそうになる懐かしい味ー愛知・豊橋「赤のれん」

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第1話はこちら

僕のソウルフードは餃子

「ソウルフード」という言葉をよく耳にするが、本来は米国南部地域の伝統的な料理から始まった言葉らしい。転じて、その地域や個人にとって「日常でなくてはならない食べ物」という意味になったという。北海道のジンギスカン、宮崎のチキン南蛮、沖縄のソーキソバなどがそうだろう。日本というくくりで言えば味噌汁がソウルフードといえるのだろうか。

日本国内でも地域によってさまざまなメニューがソウルフードと言われるのだろうが、僕としては「餃子」がそれに当たる。毎年、年末の忘年会では500個以上の手作り餃子を作って餃子パーティーをするほどだ。大学時代のバイト先が餃子屋さんだったこともあり、餃子が自分にとってずっと身近な食べ物であったのは確かだ。バイト先では毎日、数百個の餃子を巻き、それらを焼いてお客さまに出す。どうやったらおいしく焼けるかのコツも身につけた。

独立して社内で忘年会をやるにあたって何を振る舞おうか? と考えた時、やはり「餃子だな」と思ったのだ。最近では、この餃子パーティーに人が集まり過ぎて、知り合いに頼んでお店を借りて厨房を独占するかのように餃子を巻き、焼き続ける日が僕の一年の締めくくりになりつつある。

なぜ僕のソウルフードが餃子になったのか? バイト先がそうであったこと以外に何が原因だったのだろうと記憶をたぐるうちにとある餃子店にたどり着いた。

故郷の餃子店「赤のれん」

愛知県豊橋市は東三河という地域に位置する愛知県で二番目に大きな街だ。実は僕の実家がある場所でもある。ここのところは「とよはし映画祭」のプロデュースの仕事で毎月帰省している。最近ではドラマ「陸王」の撮影地として有名で、かつては僕のプロデュース作品「みんな!エスパーだよ!」のロケは全て豊橋で行ったほどのロケ誘致の盛んな街でもある。新幹線ひかり号が二時間に一本だが停車する駅もある。

品川から1時間15分で着く駅の西口を降りて右手に歩くと、その店はある。昔の長屋建てのような店が何軒も続く小道の中ほどに赤いのれんがゆらりと揺れる古い餃子店「赤のれん」だ。子供の頃から好きだったこの店の餃子がきっと僕のソウルフードのルーツなのだろう。そんなことを思い、赤いのれんをくぐってみた。

「いらっしゃいませ」と若い女の子の店員が出迎えてくれた。店の雰囲気とはかけ離れて、店員は全員学生か?と思えるほど若い。一階のカウンターには持ち帰りの餃子を待つ客でいっぱいだ。

「二階、空いてますか?」と咄嗟に聞いてみた。「どうぞ〜!お二階1名様でーす!」と若い声が響く。僕のような大男が上るには頭を打ちそうな狭い階段を恐る恐る行くと二階席が見えた。

6人掛けの赤い合皮のソファー席が三つ、四人掛けのものが一つだけある狭い空間だ。お水もおしぼりもセルフサービス。お水を取りに行く場所のそばの6人掛けと四人掛けは女子高生たちで占拠されていた。部活の帰りの彼女たちは餃子を食べながらキャッキャキャッキャと笑いながら話している。席に戻ると先ほどの店員さんが絶妙なタイミングで注文を取りに来た。

餃子が喚起するあの日の記憶

メニューは限られている。餃子の並か大か特大のみ。「じゃあ、特大とビールを」「特大一つに生中一つでーす!」と大きな声で階下に注文を通す。

「じゃあ700円ずつね〜」と言いながら女子高生たちが席を立つ。しばらくすると15個の餃子と生ビールがやって来た。一人になって餃子を見つめると「高校時代に親と一緒によくここへ来たな」とドラマだったら回想シーンが入ってしまうような時間帯に突入した。あらかじめ作っておいた酢が多めでラー油がたっぷりのタレに付け合せの茹でたもやしを浸して口に運ぶ。そして次に餃子をドボーンと沈ませて食す。「ああ、この食感。これは何十年も変わらないな」とまた回想シーンに入ってしまいそうになる。

フライパンにたっぷりの油で半分揚げてあるような製法のパリッとしているのにどこか柔らかい餃子は一体どうやって作るのだろう?と昔、持ち帰りのカウンターから厨房を覗いたことがある。いい年のオヤジさんがコンロにかけた二つのフライパンを操りながら焼いていた。蓋をした片方のフライパンから生の餃子が並んでいるもう一つのフライパンに蓋の間から大量の油を注ぐ。そして、油を無くしたフライパンからしばらくすると30個はあるだろう餃子をそのまま持ち帰りの器に移していた。

「なるほど、油の量がポイントだに。揚げてるようで蒸してるんだに」と高校生の僕は「赤のれん製法」を盗み見していた。

そんな回想シーンから戻ると向かいの席にお母さんと娘さんが座った。向かい合わせに座って、「特大二つ」と注文した。親子で特大二つは多いのではないか?と余計な心配をした。そんな二人を眺めながら「この母娘は二人でここによく来るのかな、お父さんは?お父さんはいないのかな?だとしたら母と娘にとってここの餃子は父との思い出の味なのかな?泣けるなぁ」と勝手な妄想を膨らませていると特大二つがやって来た。

すぐ後に、作業服を来たお父さんが席に着いた。娘さんがにっこりと笑った。「良かった」などと思いながら残りの餃子に箸を付けた。僕はやっぱりここの餃子が好きだ。何十年も変わらない味をどうやって続けているのかは謎だけれど、少なくとも今自分が座っている赤い合皮のソファーも美味しい餃子とビールが載るテーブルも30年前と変わりなくここに存在している。そして、その空間がさまざまなことを思い出させてくれたり、色んなドラマを想像させてくれるのだ。

さあ、次はどんなドラマに出会えるお店に行こうかと楽しみになってきた。

■第2話のお店
赤のれん

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森谷 雄
この記事を書いた人

もりや たけし 1966年2月24日愛知県生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、テレビドラマの世界へ。プロデューサーとして、「天体観測」('02/フジテレビ)、「ザ・クイズショウ」シリーズ('08・'09/日本テレビ)、「33分探偵」シリーズ('08・'09/フジテレビ)、「深夜食堂」('09/毎日放送・TBS)、「コドモ警察」('12/毎日放送)、「みんな!エスパーだよ!」('13/テレビ東京)などのドラマを手掛ける。映画の主なプロデュース作品は『ロッカーズ ROCKERS』('03/陣内孝則監督)を皮切りに、『シムソンズ』('06/佐藤祐市監督)、『Little DJ〜小さな恋の物語』('07/永田琴監督)、『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』('08/塚本連平監督)、『シャッフル』('11/及川拓郎監督)『しあわせのパン』('12/三島有紀子監督)、『ぶどうのなみだ』('14/三島有紀子監督)、『曇天に笑う』(‘18/本広克行監督)。
監督作品には『サムライフ』('15)、『アニバーサリー』(‘16)がある。

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