飲食店で働く人のための情報マガジン by トレタ

連載
2017年10月5日

ドラマのあるレストラン 〈第1話〉トレンディドラマだったらここで恋に落ちるー東京・神泉「カフェブリュ」

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「映像プロデューサーの目線で食のエッセイを」というオーダーが何故、僕に来たのか? よくよく考えてみると、僕の作品歴には食ものが多かった。

「将太の寿司」(フジテレビ)では寿司で戦う物語を描き、「深夜食堂」(毎日放送)では小さな食堂の謎の店主がお客の食べたい思い出の一品を作ってくれる人情ものを。映画『しあわせのパン』では北海道のパンカフェにやってくる訳ありのゲストを温かく包むロハスな物語を。「女くどき飯」(毎日放送)では本物のお店を舞台にモテない女性ライターの本音つぶやき炸裂なデートを描き、「ホクサイと飯さえあれば」(毎日放送)では自炊にこだわる美大生と一匹のぬいぐるみの生活を描いてきた。

そんな僕の目線で、どんな食のエッセイを書こうか?と思ったのだが…。やはり、自分が行って、食べて、空間を楽しんだお店を映像プロデューサーとしての目線でレポートしていくのが一番いいかもしれないと思った。味はもちろんのこと、そこにあるテーブルの様相や空間の心地よさ、見ため的に絵になる要素がその食事自体を演出してくれるものだ。

つまり、そこにはある種のドラマが生まれる。僕の中のドラマの定義は「人の心を変える作用」だと思っている。「おいしい」という感動を引き出すのは料理だけではなく、そのお店が持っている「何か」である。その何かを僕なりにレポートする、題して『ドラマのあるレストラン』の始まりです。タイトルにはレストランとありますが、食事をするお店の総称として、そう呼ぼうと思います。時にはカフェや居酒屋さんや食堂も出て来るかもしれません。では、第1話の始まりです。

ワインが結んだ出会い

東京の渋谷区にある神泉には、渋谷の中心街とは違った落ち着きとオシャレ感を持ったお店が沢山ある。海鮮物を中心とした店には毎晩外国人の客がひしめき合い、会社帰りの女性たちがわいわいとワインバルに集う。

そんな中、僕の一番のお気に入りの店が『カフェブリュ』だ。僕のオフィスのある神泉にはなかなか落ち着くカフェがなかった。あるランチ時、旧山手通りから道玄坂に抜ける神泉の商店街を歩いていると薄い木目の木枠と半透明のトタンで作られたエントランスのお洒落なカフェができていた。僕はやはり、そのお店の作りに魅かれるようだ。

ドアを開けて入ってみると、清潔感のある木造りのカウンターとテーブル席、白い漆喰の壁、オープンキッチン、そして奥にはガラスのワインセラー。「ん? ただのカフェじゃない?」と思い、一人でカウンター席の一番端っこに座った。

笑顔の素敵な黒髪の女性店員さんが声をかけてくれた。「何にしますか?」と。僕はとっさに「本日のスペシャルを」とオーダーした。それは『塩漬け豚肉のポトフ風』というメニューだった。メインにパンとサラダ、そしてカフェラテも付いて1800円。普段なら少し高いと思うランチだが、店の雰囲気も相まって、ちょっとだけ背伸びをして見せた。

店の壁にある棚に目をやると「ワインに合う創作料理」といったタイトルの本があった。「これ、見せてもらっていいですか?」と黒髪の女性に尋ねると、「もちろんです。私が書いた本なんです」と言ってまた笑顔を見せてくれた。「なるほど、ただのカフェじゃないな」そう思いながら本を開いてみると、そこにはワインに合う料理の数々と日本のワインのリストが載っていた。

偶然にも映画『ぶどうのなみだ』の取材で訪れた北海道の山崎ワイナリーのワインが載っていることに驚き、「僕、このワイナリーに行ってきたばかりなんです」と話しかけると、「私も年に一回は行きますよ」と普通にその答えは返ってきた。これから自分が作ろうとしている映画のモデルになるワイナリーに行った事があるという人に東京の神泉で出会うなんて! トレンディードラマだったら恋にでも落ちそうなもんだ。

そして、恋に落ちた

そこから暫く、日本のワインの素敵さを語ってくれた黒髪の店員さんは、目黒や中目黒を中心に店舗を展開するダイニンググループの女将だった。神泉に初進出したのがこの「カフェブリュ」なのだそうだ。名前は違うが目黒のお店を何かの雑誌で見たことがあった。

そうこうしているうちに『塩漬け豚肉のポトフ風』がやってきた。キャベツにプチトマト、玉ねぎが入ったポトフ風のスープの上には厚切りの塩漬け豚のソテーがのっており、それをナイフとフォーク、そしてスープをすくうようにスプーンを使って食す。絶妙な塩味と肉とキャベツの食感、やさしいスープの味が口に広がった。

僕は女将ではなく、まずはこの味に恋をした。食後のカフェラテにはさりげないラテアートが施されており、それを飲みながらカウンターの端からオープンキッチン、そして、ワインセラーの横のテーブル席にまで漂う雰囲気を眺めているうちに、今度はこの店自体に恋をした。「今度は夜に伺います。北海道のワインを飲みたいです」「お待ちしています」。カフェブリュは、なかなか行きつけの店を持てなかった僕の、東京で一番好きなカフェになった。

ドラマを感じるのは料理の味だけじゃない。当たり前のようだが、その店が醸し出す雰囲気そのものもや店員さんとの会話も相まって感動が生まれるのだと思う。さあ、次はどんな感動に出会えるのか? お楽しみに。

■第1話のお店
カフェブリュ 

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森谷 雄
この記事を書いた人

もりや たけし 1966年2月24日愛知県生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、テレビドラマの世界へ。プロデューサーとして、「天体観測」('02/フジテレビ)、「ザ・クイズショウ」シリーズ('08・'09/日本テレビ)、「33分探偵」シリーズ('08・'09/フジテレビ)、「深夜食堂」('09/毎日放送・TBS)、「コドモ警察」('12/毎日放送)、「みんな!エスパーだよ!」('13/テレビ東京)などのドラマを手掛ける。映画の主なプロデュース作品は『ロッカーズ ROCKERS』('03/陣内孝則監督)を皮切りに、『シムソンズ』('06/佐藤祐市監督)、『Little DJ〜小さな恋の物語』('07/永田琴監督)、『ぼくたちと駐在さんの700日戦争』('08/塚本連平監督)、『シャッフル』('11/及川拓郎監督)『しあわせのパン』('12/三島有紀子監督)、『ぶどうのなみだ』('14/三島有紀子監督)、『曇天に笑う』(‘18/本広克行監督)。
監督作品には『サムライフ』('15)、『アニバーサリー』(‘16)がある。

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